1-8.「新入部員を連れてきたよ」

「新入部員を連れてきたよ」

 対馬は部室の扉を開けてそう言うと俺を見た。新入部員というよりはドナドナの子牛だけどな。

「難波じゃないか。おまえ、パソコン部に入るのか? それはリベンジに好都合」

「し、シイナ先生?」

 学園で数少ない聞き覚えのある声につられて、俺は室内を見る。縦四列に配置されたパソコンはざっと五〇台。そんな広い教室の一角にひとりの男子生徒とシイナ先生が座っていた。

 対馬が俺の両肩に手をかけて、ぐいっと室内に押し出す。

「シイナ先生、こいつ誰?」

 スマホをいじっていた男子生徒が顔を上げた。身長は対馬と同じか、少し高いぐらい。細身の対馬よりもしっかりした筋肉質で、なによりも目つきが悪い。

「こいつは難波一。わたしのクラスの生徒だ。今日の授業で、わたしの―」

「死のロングウォークを破ったうわさの男か」

 うわさの男? それ、どこの世界の話ですか。

「なるほどな。それでユウシにスカウトされたってわけだ」

「先生の鉄壁問題をクリアしたんだ。今後に期待がもてる大型新人ってやつだね」

 シイナ先生の左眉がひくひくと動いた。これ以上、あおるのは危険すぎる。

「そ、それで対馬。こっちの彼は誰?」

 俺は、対馬と目つきの悪い男を交互に見る。

「対馬じゃなくてユウシだ。それから」

 ユウシは、俺の横を通り抜けて目つきの悪い男に並んだ。

「こいつは三浦弘。僕はヒロムって呼んでる。隣の1―Bのやつだ」

「よろしくな。難波」

 三浦がじっと俺を見据える。なんなんだ、この無意味な迫力は。なんとなく気圧されて視線をそらしてしまった俺を見て、ユウシが苦笑いした。

「ヒロムの特技はいわゆる情報収集。学園もののゲームやラノベでは最初に味方になる無害な存在だよ」

 少しも無害には見えない目つきでヒロムが笑った。

「サボっていたときに聞こえた授業中のどよめき。壁際に追い込んだヤツが教えてくれた噂話。そしてユウシが拉致ってきた新入部員。難波のことは情報の断片が教えてくれたよ」

 いや、それ充分に危ないと思います。もっと普通の学生生活を過ごしましょうよ。

「それだけじゃない。ヒロムは他校にもネットワークがあって、卒業した中学校には舎弟もいるらしい」

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