1-6.「いまどきパソコン部? お疲れさま」
「いまどきパソコン部? お疲れさま」
「それで、さっきの解答を見て思ったんだよ。きみはパソコン部に入部するべきだ」
全身で会話を断ち切っているのに、対馬はまったく動じない。鉄の心臓かよ。
「アルティメット・ミッションのことは知っているよね?」
「クラスのみんながハマってるゲームだっけ。それしか知らない」
「アルミは現実をゲームの舞台にするんだ。『ルール』があるから詳しいことは説明できないけれど、とにかくこの現実世界でゲームができると思えばいい」
現実世界でゲーム? なんだそれ。
俺のとまどいは気にもせず、対馬は入部届と書かれた紙を取り出した。
「僕たちパソコン部はアルミにチームで参加してる。ぜひ、イチの力も貸してほしい」
おい! 誰がイチだって?
頭を下げた対馬は、そのままの体勢で俺の様子をうかがっている。俺の手の中でスマホが振動した。ワン・オア・エイトのロッキンジャパンフェスへの出場をかけた投票の時間。
対馬には悪いけど、俺は喧騒のあとのさびしさがたまらなく苦手だった。
「ごめん。遠慮しておくよ」
「今日のホームルームはここまでだ。覚えておけ、難波」
問題を解かれたことがよほどくやしかったのか、不機嫌さをむき出しにしてシイナ先生が教室を出ていった。
カバンを手に取った俺は、部活に向かうクラスメイトを横目に出口へ向かう。
「待っていたよ。イチ」
教室の扉の先、廊下側の窓際に持たれていたのは、対馬だった。
初めてまともに見た怜悧な眼差しが俺を射貫く。ほぼ金髪に近い明るい色の長髪が軽く揺れた。
「パソコン部に入る話なら断ったはずだけど」
「でも、イチはまだどの部活にも入っていないよね?」
痛いところを突かれた。囲町学園は、ゆるくてすごしやすい学園なのだが、なにごとも全力で取り組むというわけのわからないモットーの元、生徒全員の部活動参加が義務づけられているのだ。
「転校してきたばかりだからさ。もう少し学園のことを知ってから決めようと思ってるんだ。自分に合わない部だったら嫌になっちゃうからね」
俺はそのまま対馬の前を素通りする。対馬の小さなため息が聞こえた。
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