6-3. ジュンペーの気持ちは、よくわかった。

 ジュンペーの気持ちは、よくわかった。誰かが秘密にしていることをのぞくことに対する罪悪感は、どんなに正当化する言い訳を考えたとしても、すっきりするもんじゃない。

 ユウシの部屋は、この家の二階、ゲストルームを出てすぐの階段を上ったところにあった。廊下に沿って扉が三つ。ユウシの部屋は、そのうちで一番、階段に近い位置にあった。たぶん、残りふたつのどちらかが兄貴の部屋なのだろう、と俺は勝手な想像を巡らせた。

 部屋の中は、こちらもまた予想していたとおりのシンプルさ。八畳ぐらいの空間に、教科書やノートパソコンが置かれた大型の机と対になるイスがひとつ、天井まで届く高さの造りつけっぽい本棚が三つ、ベッドがひとつ、二一インチぐらいのテレビが一台、壁面にはクローゼット。部屋の色調は、完璧にモノトーンで統一されていて、ショールームを丸ごと持ってきたみたいな完成度だ。

「四畳半の部屋に机とベッドを押し込んだ俺の部屋とは、ずいぶん違うなあ」

「安心するのだ。この部屋は、自分たち一般家庭の部屋とはまったく違うのだよ」

 ジュンペーのデイパックから、デジカメやノートパソコン、ケーブルなどいろいろな機材を取り出しながらトシが言う。トシのやつ、今日は珍しく手ぶらだと思っていたら、こういう仕組みだったのか。

「自分の部屋など、メインで使っているPCが二台。サブ代わりのノートPCが一台。モニタが三台に、スキャナーや液晶タブレットもあるので、こんなゆとりのある空間ではないのだ」

 おまえの部屋も一般家庭の部屋じゃないよ。

「おら。口、動かしてないで、手ェ動かせ。あんま時間ねえんだぞ、バカ」

「あやしまれないで済むのは、三〇分ぐらいだと思うのです。急がないと、なのです」

 ヒロムやジュンペーのいうとおりだ。準備が終わったなら、すぐにでも調査に取りかからないと。

「とりあえず、トシはノートPCのハッキングから始めてくれ。ヒロムとジュンペーは、手分けして本やノートにメモやあやしい書き込みがないかをチェック。俺は――」

 ユウシの机の上。ポツンと点いた赤い光に照らされて銀色の本体が浮かんでみえる。

「ユウシのスマホをハッキングしてみる」

「わかった」「了解なのです」「では、始めるのだよ」

 俺の言葉を合図に、みんなが一斉に動き出した。俺は机の上からユウシのスマホを取ると、みんなのジャマにならないよう部屋の隅に移動する。ユウシのスマホは充電されたままだった。スイッチを軽く押し込むと、ぼうっとスクリーンが明るくなる。

 ひび割れひとつない、きれいな画面。事故の日、ユウシはスマホを置いて出かけたんだろうか。

「イチ、十回連続で入力を失敗すると、スマホ内のデータがすべて消えるのだよ」

「気をつけるよ。トシも手がかりになりそうなものを見つけたら、すぐに教えてくれ」

 スクリーンに映し出された四ケタのパスコード入力画面を見ながら俺は答えた。

 事故の日から一〇日。俺たちは、事故の調査と並行して、ユウシのスマホをハッキングするためのパスコードについても情報を集めていた。ユウシの誕生日、出席番号、学籍番号、家の番地、好きだと言っていたバスケットボール選手の背番号など。数字に変換できると思えば、すべて保存しておいた。

「なあ、トシ。ユウシがパスコードに“0000”とか“1111”とか“0123”みたいな単純な数字の組み合わせを使うと思うか?」

「一〇〇テラパーセントないのだよ。そんな弱いパスコードをかけても意味がないことをユウシは知っているからな。絶対に考え抜いた四ケタの数字を使っているはずなのだ」

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