5-3. と、ここまではネットニュースでも流れている情報。

 と、ここまではネットニュースでも流れている情報。俺が井戸端会議をしているおばちゃんから聞いた話では、今日の午前二時頃に長い髪の少年が、八幡山駅から事故のあったマンションのある南方向に向かって歩いていたらしい。だが、今のジュンペーの話では、マンションのずっと南側でマンションに向かって―つまり北に向かって歩く長い髪の少年が目撃されている。少年には、マンションの前をうろうろしなければいけない理由でもあったのだろうか。

 もっとも、俺たちが一番、知りたかった少年の搬送された病院については、なんの情報もなかった。トシの話では最新のニュースでも、少年は意識不明の重体としか報道がされていないから、安否については、大きな変化はなかったと考えていいだろう。

「やっぱりユウシくんなのでしょうか」ジュンペーが下を向いてつぶやいた。俺は首を左右に振る。

「そうなのですよね。まだ……わからないのでした」

 ジュンペーが唇をかみしめて黙り込むのを見ていた。今になって、最後に駅で別れたときのユウシの姿が頭に浮かぶ。どこか吹っ切れたような微笑み。揺れた長い髪。

「とにかくさ。今は少しでも多くの情報を集めよう。街の人が忘れてしまう前に」

「そのとおりなのです」

 俺とジュンペーのスマホが同時に振動した。トシからのメッセージだ。

『転落した男が運び込まれた病院がわかりそうなのだよ。どこかの物好きが、現場から病院まで動画サイトで実況中継していたのだ。今、ヒロムが映像を元に場所をあたっているのだよ』

『トシ、それ本当か?』

『この状況で、ウソは言わないのだよ。とにかく、病院の方は自分とヒロムで調べておくから、イチたちは現場付近で、転落した男のほかに誰かいなかったのか、もう一度、調べておいてほしいのだよ』

 トシのメッセージは、ある可能性を踏まえてのものだった。そして、その可能性については、ヒロムもジュンペーも俺も、心のどこかで思っていたはずだ。マンションから転落した少年が、本当にユウシだったとしたら、この事故はただの事故じゃない。

 次の日の午後、俺たち四人は阿佐ヶ谷駅の北口に集合して、転落した少年が搬送された病院に向かった。病院の場所は、昨日のうちにヒロムと彼の舎弟がつきとめてくれていた。駅から道沿いに五分と少し。昨日の午後いっぱいかけて探した場所は、あっけないほど簡単に見つかった。

 病院内に入り、総合受付に向かう。昨日の実況中継野郎も、さすがにどの病棟に搬送されたのかまでは追いかけていなかった。「どうされましたか?」といった顔で受付のお姉さんが俺たちを見る。

 さっきまで横並びで歩いていた他の三人は、いつのまにか一歩後ろに下がっていた。俺は、あわてて全員の顔を見たけれど、三人は眼で「おまえが行け」と言った。

「昨日、こちらに入院した対馬祐士くんのお見舞いに来たのですが、病室がわからなくて……」

「わかりました。少々お待ちください」

 受付のお姉さんは、カタカタとキーボードを叩くと「ああ、この子か」と小さくつぶやいた。

「対馬祐士さんは五階の集中治療室です。おそらく面会はできないかと思いますよ」

「ありがとうございます。それでも、ひと目、会っておきたくて」

 面会人名簿に名前を書いてお姉さんから面会者バッジを受け取ると、エレベーターホールに向かう。

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