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お前らは現実とゲームの区別がつかない

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現実を舞台にポイントを競うゲームにハマっていく少年たち。「こんなことになるなら、友だちなんて作らなければよかった……」
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2016年6月の記事一覧

7-2.「別に悪ぃことに使うための道具じゃねえよ。悪ぃことにも使えるってだけで」

「別に悪ぃことに使うための道具じゃねえよ。悪ぃことにも使えるってだけで」

 トシの手から受け取ったボルトカッターをジュンペーのデイパックにしまいながらヒロムが言う。まあ、今の俺たちの状況から考えれば、良いことに使われる可能性は低いと思うが。

「んなことよりトシ、ここは大丈夫なんだろうな?」ヒロムが不意に声を押し殺す。

「大丈夫に決まっているのだ。校門の外側はギリギリ監視カメラの死角。もっとも

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7-1. 夏休みに入り、生徒が行き来しなくなった囲町学園は、とてもひっそりとしていた。

 夏休みに入り、生徒が行き来しなくなった囲町学園は、とてもひっそりとしていた。待ち合わせまで時間もあるので、学校のまわりをぐるっとまわってみる。

 元々、あまり活発ではない運動部の貴重な夏季練習も終わったのか、グラウンドに人の気配がない。運動部よりもやる気のない文化部については言うまでもなく、午後の日射しを照り返す校舎の窓ガラスの向こうに誰かがいる様子はなかった。たぶん、今、学園内にいるのは警備

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6-12.「日本国内の有料サーバーでは、すぐ足がついてしまうのだよ」

「日本国内の有料サーバーでは、すぐ足がついてしまうのだよ」

 過去に痛い目にあったのだろうか。トシの言葉には、変な実感がこもっていた。

「分散処理をするにしても、個人ベースのサーバーでは無理なのだ。せめて大学レベルの――」

 トシの言葉に頭をぶん殴られたような気がした。あるじゃないか。すぐ近くに。

「俺たちの学園にも、たしかスゴいサーバーあったよな」考えが思わず口をついて出る。

「サーバ

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6-11. 実際のところ、世間では「原因不明」とか「動機が定かではない」という事件が、毎日のように起きている。

 実際のところ、世間では「原因不明」とか「動機が定かではない」という事件が、毎日のように起きている。そのうちのいくつかがアルミに関係しているかもしれないと想像してみるといい。もしきみたちが、それをリアルに感じられればプレイヤー側、誇大妄想だと笑えるのであれば一般側だ。

 話を元に戻そう。僕は、これらの仮説をたしかめるとともに、パペットマスターの実態に近づくため、アルミの、特に裏ミッション実行時の

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6-10.「これは、一度、工場出荷時の状態にリセットされているかもしれないのだよ」

「これは、一度、工場出荷時の状態にリセットされているかもしれないのだよ」

 ユウシのスマホからデータを抜き出しながらトシがぼやく。基本アプリで残ったのはメールだけ。

「なにも、ない……のです」

 立ち上がったメールの受信画面を見て、ジュンペーが落胆の声をあげた。でも、すぐにトシが全否定する。

「ジュンペーは、あきらめるのが早すぎるのだよ。まだ全部は見てないのだよ」

 トシがキーボードを叩

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6-9.警告音も振動もなかった。

 ――1、0、4、9。

 警告音も振動もなかった。ただ、ふわっと画面がホーム画面に切り替わった。

「やったじゃねえか!」

 拳をぐっと握って、ヒロムが俺のスマホをのぞき込んでくる。呆気にとられてしまった俺は、口を半開きにしたまま、ホーム画面を見つめていた。でも、そこまで。

「みなさん、お探しのものは見つかったかしら?」

 短いノックに続けて、ドアの向こうから声がした。ユウシのお母さんだ。

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6-8.あれこれと悩んでいる時間はなかった

 あれこれと悩んでいる時間はなかったので、ヒロムの話はもっともだと思ったけれど、今は絞り込まれた数字に賭けてみることにした。この数字に替わる情報が見つかっていない以上、どうやっても手詰まりになるのは見えていたから。みんなもわかっていたのだろう。特に反対はしなかった。

「で、どの数字から試してみるんだ」

 ここから先はおまえに任せたと言わんばかりにヒロムが腕組みをする。

「……誕生日からにしよ

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6-7.「わかった。んじゃ、俺たちは撤収の準備だ」

「わかった。んじゃ、俺たちは撤収の準備だ。重要そうな本やノートを残して片付けるぞ」

 俺は、トシからメモ帳とシャープペンシルを返してもらうと、部屋の片隅の壁にもたれて座り込んだ。

 シャープペンシルを回しながら、メモとスマホを交互にながめる。

 ヒントが『僕に関係ある日時がパスコード』だなんて、ユウシにしてはセキュリティが甘いというか、わかりやすいヒントを残したものだ。これじゃあ、パスコード

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