ウクライナ戦争とガザ紛争そしてオリンピック休戦〜オリンピズムは世界救済の思想になる〜
ウクライナ戦争の終わりも見えない中に起きたガザ紛争。戦争をなくすための方法は何か?ユダヤ教もイスラム教もクリスト教も神は「殺すなかれ」と言っているのに、その信者たちが戦争という人殺しを正義としている。
第二次世界大戦以後の冷戦が解けて1990年代に訪れた経済による世界平和への道も、今となっては権威主義と民主主義の対立構造に埋もれようとしている。
そして今、我が国では経済成長低迷の中で国民から年貢をいかに取り尽くすかに優秀な頭脳を使う官僚たちの小手先の支援に縋り、なんとか生き抜こうという庶民が右往左往している。
地球環境問題に政府も大企業も寄り添っているように見えるが、欧州委員会共同研究センター(JRC)の10月19日の発表では、2022年の温室効果ガス(GHG)排出量は、世界全体で前年比1.4%増加している。EUは0.8%減だったので、日本の貢献度が疑われる。
混迷の度を増す世界情勢の中で、見直すべきはオリンピックの使命である。1894年にクーベルタンが「世界平和構築の手段としてのスポーツ交流」を提言した時、その根底にあったのは古代オリンピア祭典競技のエケケイリア(聖なる休戦)だ。どんなに戦さが続いていようとオリンピア祭の期間だけは武器を置いてオリンピアに集まり、「裸一貫」で競技したのであった。
以下、国連広報センターの記載を引用し、この休戦が如何に実践的であったかを示す。
オリンピック停戦は、紀元前8世紀に制定され、ギリシャ語ではエケケイリアといって「手をつなぐ」という意味を持つ。古代ギリシャ王のイフィトス、クレオステネス、リュクルゴスが、当時としては史上最長となる停戦協定であったオリンピック協定に署名し、後にこれがギリシャの都市国家間で条約として承認された。この国際的な協定によると、停戦はオリンピック開会の7日前に開始され、オリンピック閉会の7日後に終了し、停戦期間中はすべての戦いが停止された。停戦は、オリンピックに出場する選手やその他の大会参加者、また観客が古代オリンピアに安全に到着し、安全に帰路につくことができることを約束した。オリンピック協定は、過去12世紀の間、オリンピック大会の拠り所としてその役割を果たし、大部分は忠実に順守されてきた。
この思想を私は休戦思想原理と呼ぶが、もしこれを忠実に実行していけば、少なくとも4年に一度は戦争のアンチテーゼを世界が示すことになる。それは地政学的パワーバランスにも影響を与えることができる可能性がある。そして、このオリンピック休戦期間が延びれば延びるほど平和的状態が維持できることになる。
近代五輪がスタートして二つの世界大戦ではオリンピック休戦を実現できなかった。しかし、1992年に勃発したバルカン半島の戦争に対して、1993年、サマランチ第7代国際オリンピック委員会(IOC)会長が提言し、国連でこのオリンピック休戦決議がなされた時から、オリンピック開催前年にこの国連決議は採択され続ける。1994年のリレハンメル冬季五輪ではたった1日であったが、休戦が実現した。
そしてこの年から五輪は夏冬同時開催から夏と冬が2年ごとになった。それゆえ五輪休戦の機会が増加した。さらに2010年からはユースオリンピックが夏冬開催されることになったので、ユース五輪も休戦対象にすれば、さらなる休戦期間の延長に寄与する。
2023年11月21日、2024年パリオリンピック・パラリンピックの期間中、世界のあらゆる紛争の休戦を呼びかける決議(A/RES/78/10:)が国連総会で採択された。ニューヨークの国連本部で開かれた国連総会で、パリ五輪大会組織委のエスタンゲ会長は「オリンピック・パラリンピックは分断ではなく連帯を表す。対立や緊張が続く世界でスポーツはより必要なもとなる。これまで以上に果たすべき使命があり、よりよい世界への一歩を踏み出す助けとなる」と決議への支持を呼びかけた。
ロシア代表は「国際大会からロシア人選手を違法に締め出そうとする試みはまったく受け入れられない」と反発し、各国の総意としての採択ではなく投票を行うよう求め、その結果、ロシアとシリアが棄権したものの118か国が賛成し、決議は採択された。
ロシアは2022年2月24日ウクライナに侵攻した。北京オリンピック冬季競技会は確かに20日に閉幕していたが、オリンピック休戦期間はオリンピック開会7日前からパラリンピック閉幕7日後までの期間であり、明らかな五輪休戦違反となった。この事実の罪を認めない限り、ロシアがオリンピックに復帰するのはそもそも不可能である。
パリ五輪の休戦期間は実際には2024年7月19日から9月15日となる。この間は少なくともロシアもウクライナも武器を置かなければならない。それが実現できるかどうかがロシアとウクライナに突きつけられたオリンピックの刃である。と同時にガザ紛争に対してもオリンピック休戦を強く呼びかけるべきである。ロシアとウクライナに通用するクリスマス休戦は、ユダヤとイスラムには通じない。しかし宗教を超えるオリンピック休戦は主張できるだろう。
ロシアオリンピック委員会は、ウクライナオリンピック委員会の管轄下にある地域スポーツ団体を加盟国に含めるという一方的な決定を行ったため、現在IOCから活動停止に追い込まれた。彼らが政治的思考を停止し、スポーツ的に思考(スポーツ思考)しない限り、ロシアの国際スポーツへの復帰は夢のまた夢である。
民主主義の限界、資本主義の限界、共産主義の限界が透けて見える現在、オリンピズムという全く別次元の思想こそ、世界平和実現のツールであると私は信ずる。なぜなら「スポーツのみ」の人と人との交流は「身体」を通じるが故にあらゆる垣根を「体感的」に超えることができるからである。
その第一歩がオリンピック休戦の完全履行のための努力と思うのである。
(敬称略)
2023年12月7日
明日香 羊
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編集好奇
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秋に酔う暇もなく2ヶ月が過ぎました。その間、私はスポーツ思考ゼロ状況でした。反省であります。世事に追われていたというべきでしょうか?そんな中、11月下旬、京都に赴き、趣味の一つ、信長研究を進める機会がありましたが、ちょうどその時、馳浩石川県知事の失言?!があり、メディアの取材が急遽たくさん入って、祇園を歩きながら電話取材に答えるという何とも雅なき様。それでも本能寺の信長愛刀復元を手にできた時は、さまざまな閃きをいただきました。いつか発表できればなあ。馳さんの件は五輪招致の現実は「実際」と「理念」が理解できない人々には論評してほしくないですね。
YouTube Channel「春日良一の哲学するスポーツ」は10日ごとに更新されています。今は私のIOC総会運営秘話を公開中。
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