『 グロテスク 』を読んだ感想 グロテスクは、現代の『 藪の中 』
桐野夏生さん著『 グロテスク 』は、現代版『 藪の中 』
いまや賞のほうが、有名ではと思われる芥川龍之介が書いたのが『 藪の中 』
どちらも、結末はわかっている。
だれかが殺される。
結論は、ひとつの点。
その結末へいたるまでの過程は、迷路のようにいりくんでいる。
『 グロテスク 』は、わたしの証言から物語がはじまり、妹や犯人、同級生などの日記を読み、そして、わたしの時も現在や過去をいったりきたりする。
手紙形式なので文体がかわる。
文体はかわる、けれども、読みやすい。
よくぞ、ここまで文体を書きわけられたなと、作者の文章への力量にたたきふせられた。
ちなみに『 グロテスク 』は英語にも訳されている。
英語でどのように書きわけているのか、興味はある。けれども、『 グロテスク 』を英語で読む能力はまだない。
『 グロテスク 』を読んでいると、ある小説のセリフが頭のなかにポッカリとうかんだ。
愉快という、二文字をのぞき、酔っぱらいをクズにかえれば『 グロテスク 』そのものを表現している。
登場人物ぜんいんクズ。(なんか映画の宣伝であったな)
クズたちの証言や日記は、赤裸々。
嫉妬、傲慢、暴露、コンプレックスを隠すことなく書いているように思わされる。
恥部を隠すことなく証言し、日記を書いているので、すべてが真実のように見えてくる。
けれども、もっとも汚い部分は、巧妙に排泄物に包みかくしている。なので、クズの嘘を見ぬくという愉しみを見いだせる。
ある出来事を多角的にながめたときに、排泄物にかくされた汚濁が鮮やかに浮かびあがった瞬間は、青空のもと50mプールの中央で小水を放出したような爽快感がある。
登場人物の証言と日記は、とうぜん作家である桐野夏生さんが、頭のなかで考え、手で書いた文章だ。
桐野夏生さんは、こんなことを頭のなかで考えるなんて、ちょっと異常じゃない、と読者に思われることを一切おそれていない、ためらわない。
よくぞ、ここまで人間の内面をおぞまくしく、汚く、卑猥に書きあげられたなと。
小説を書く小生、脱帽しました、はい。
小生まだ手加減していたな、ここまで小説に書いていいのだと、しきりに感心させられた。
人間の汚い部分をみっちりと書くことで、読者のあたまのなかに登場人物の顔や姿、声が作りあげられる。
『 グロテスク 』のモチーフになった事件を知らなかった。
事件をググった。被害者の写真をみた。
小説を読み、ねりあげられた登場人物の顔と被害者の顔が、トレースしたように一致するではないか。
物語に登場する地蔵も殺人現場も想像どおりではないか。
『 グロテスク 』は、虚構をこえたリアル。
まるで、書かれた虚構どおりに、過去の事件がおこった、そのような錯覚すらおぼえる。
東電OL殺人事件をモチーフにしたほかの小説を読む気がなくなる、それほどに暗く強い衝撃をうけた。
『 グロテスク 』の登場人物は、ぜんいんクズであり、崩壊していく。
あぁ、おれより、わたしよりも、ひどい状況の人間がいるわ、と安心するという、人の不幸は甘美な蜜の味的な愉しみかたもできる。
登場人物たちは、どこかで助かる、もしくは、崩壊せずにすみ、救われるタイミングがあったように思う。
すなおになる、助けをもとめる、すがる、たよる、登場人物たちは、他人に弱さをみせないプライドをもった狼たちだった。
どこかで、他人をたよれば、またちがった結末もあったのではと思わずにいられない。
他人にたよろう、弱さをみせてもいいじゃない、くだらないプライドなんて捨てちまえば、生きるのが楽になるのになぁ。
いま、社会問題になっている立ちんぼという言葉は、平成からあったんだなと知った作品でもある。
いまの娘さんたちは、こわくないんだろうか。
むかしとちがい、いまのほうが外国人もふえているであろうに。
『 グロテスク 』の登場人物たちは、恐怖をかんじ、ふるえながら体をうっていた。
さて、さんざんにもちあげてきた『 グロテスク 』
気をつけてもらいたいことがある。
あなたが、いま、現在ヘコんでいると、さらにズンドコにへこむだろう。
深淵ともいえるドス黒い話なので、コールタールの汚泥にしずめられるように窒息してしまう可能性もある。
気持ちが、お元気でないときは、読まないほうがよい。
つぎに、女性の美しさのリミット制限を40歳にこだわりすぎではとおもった。
事件とうじは女性の美しさのは、リミットは40歳が常識だったのかもしれない。
けれどもいまの40代の女性は、みなさまお美しい。
なんなら50代でも美しい。
あの当時は、30代で熟女専と小説に書かれていた。
年齢にたいする感覚のズレはある。
さいごに、『 グロテスク 』の解説は、斎藤美奈子さんが書いている。
斎藤 美奈子は、愛あるシャンパンによく似た辛口の評論家。
その評論家が、桐野夏生さんの代表作である『 OUT 』を『 グロテスク 』は越えたと書いている。
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