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『 OUT 』桐野夏生著を読んだ感想 OUTを探す小説、それがOUT

桐野夏生著『 OUT 』は、OUTを探す小説。
英語のOUTには、いろいろな意味がある。
外へ、外へ出て、尽きて、消えて、完全に、などなどの意味を梱包している多元的な単語だ。
受験生や英語学習者をこまらせる単語のひとつでもある。

英語のOUTが、たくさんの意味を持つように、『 OUT 』の文中には、OUTが三途の川の石のようにころがっている。
犯罪のOUT、金のOUT、親友関係のOUTなどなど。
そして『 OUT 』には、たくさんの人物が登場する。
『 OUT 』は、このミステリーがすごいが1位に選ばれた小説なので、ミステリーにカテゴリーされるようだ。
コロンボや古畑形式なので、読者は犯人をしっている。
読者が見つけるべき人物は、世間一般の人間の想像の範疇から飛びだしてしまったOUTな人物を見つけだすことだ。
一見すると、一般常識をもち、世間にあわせて暮らしている。
が、袋にいれられたキリが布をやぶるよう突きでるように、井の蛙が、ほっぷ、すてっぷ、じゃんぷして飛ぶだすようなブラックボックスのようなOUTな部分をもつ人物がいる。
世間の常識では、心境を説明できないOUTな人物が、『 OUT 』の主人公とサブ主人公だと私はおもった。

桐野夏生さんの描写は、とても緻密。
丁寧すぎるほどの描写が、冒頭からしばらくつづく。
犯罪をおかすことになる女性たちの現状が、つらつらとつづられている。
「あぁ、こんなひとおんな」と思ってしまう登場人物。
「わたしと同じように苦しんでいるな」と心境をかさね同情してしまう登場人物。
「小悪党の、あいつみたいやな」と知り合いの顔がうかぶ登場人物などなど。
しっかりと書くことで、登場人物が3Dのようにリアルに浮きあがり、物語が重厚になる。
だけども、小説を読みなれていない私は、「ツマンネ」と飽きそうになった。
事件が起こってからは、酒を呑むのをひかえ、一心不乱に読みふけった。
『 OUT 』の序盤でギブアップされたかたは、モッタイナイ、ほんとうに。

ていねいに『 OUT 』の登場人物の状況や心理を書いているので、登場人物たちの行動原理や心境はわかる。
それでも、『 OUT 』の登場人物のなかには、行動原理や心理がわからないOUTな人物たちがまぎれこんでいる。
意味ありげに、たくさんの人物が登場する『 OUT 』
けれども、最終的に物語の土俵にのこるのは、もっともOUTなハートをもつ人物たち。

OUTなひとりの心境を、OUTぎみの俺は理解できる。
嗜虐的な愛とでもいうのだろうか。
おなじような変態チックとも、狂気的なことを、ちらりと考えたことがある。
もうひとりのOUTぎみの登場人物の心境は、まったく理解できなかった。
めんどうみがよいのか、サバサバしているのか。

桐野夏生さんは、綿密な描写を書きつらねる冷静な筆力と、狂ったような激情と欲望をえぐるように描き、そして人生を達観した冷静な目をもつ作者さんだとおもった。

ホメてばかりではあれなので、おしいと思ったポイントもある。
ねちっこくせずクールな描写が『 OUT 』にはミートしていると思うが、物語のクライマックスあたりの狂気的な行為の描写をもうすこし詳しく濃くねちっこく、ねっとりと書いてほしかった。

話変わって『 OUT 』は、1997年に発表された。
携帯や監視カメラが発達したいまだと、すこしおかしいと感じられる部分もある。
赤いカローラが走っていたら確実にめだつと思う。

ぎゃくに、2020年になったいまだからこそリアルに感じられることもある。
貧困、介護、家出、無能な警察、ギャンブル、借金、家庭内別居、ドメスティックバイオレンス。
いまの世で問題になっていることが、20年前の『 OUT 』にしっかりと書かれている。
それらの問題にのみこまれてしまい、これからOUTになる日本人はふえると思う。
いや、ふえていると思う。
世間からOUTしないためのヒントは『 OUT 』には書かれていない。

むしろ、閉じこめられた劣悪な環境から外に飛びだせず、力尽きて、消えてしまう未来しか見えない。

それでもよければ、『 OUT 』を手にとりお読みください。

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