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知らなければ

 電話機がある家は、どれくらいあるだろうか。
 携帯電話がまだ身近なものでなかった学生時代。聞いて、嫌だと思ったのが電話の話だった。
 間違い電話というのもあったが、イタズラ電話もよく聞いた。無言電話、というのも家の電話で受けたこともあったのではないだろうか。
 その無言電話に悩まされていた人の話だった。ナンバーディスプレイサービスというのが出始め、試しにつけてみないかの誘いに、無言電話に困っていたので付けたのだった。すると、その人は大きなショックを受ける。犯人の番号が分かったのだが、実の弟だったという。知らなければ良かった、と嘆いていたという話だった。
 その人は、弟に無言電話のことを話したのだろうか。言わないままだったのだろうか。どちらにしても、知った人の心には、暗い影を落としただろう。
 家族、兄弟はいつも一緒にいるように思われるが、心の距離が近いわけではない。血が繋がっていても、全く性格が合わない人もいるだろう。優しい人は、家族なだけに、思ったことを言えずに過ごしていくことになるのかもしれない。


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