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最後の挨拶もなし

 4月。新年度のはじまりだ。今年は1日が月曜日ということもあり、わくわくする気持ちでいる人も多いだろう。新しい環境や初めてのことにとまどいながらも、しっかり覚えていこうと張り切る表情の人を見ると、新しい年の始まりを感じる。
 新しく入ってくる人も、異動してくる人もある。
 会社によって雰囲気は違うのだろうが、異動になったとき、挨拶はするものと思っていた。ただ、いま働いている職場は違うようだ。ある人が異動するらしい。異動の報告として全体に連絡はあったのだが、挨拶する場も設けられず、最後まで上司たちから一言も声をかけられなかった。
 その異動は、職場内での人間関係のトラブルが原因だった。メンタルをこれ以上不調にしたくないため、離れたいとの希望があってのものだった。そんな理由もあって、あまり知られないようにしたかったのだろう。まるで腫れ物にさわるかのような扱い。全体への連絡は、年度最終日だった。
 噂で何があったのか感じ取っている人は、報告を聞いても特に顔色を変えず、異動する人に声をかけにいくこともない。まだ環境に慣れていない人も、なんとなく空気を読み取って静かにしている。1年の間に辞めていく人も多く、聞いても何も思わなくなってきた。この冷たい空気が蔓延しているかのようだ。
 まるで最初から在籍などしていなかったかのように、人を切り離す。私は奇妙に感じるのだが、このような光景は、職場ではよく見られるのだろうか。その人は、何も悪いことをしていない被害者なのに。

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