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治療開始前の葛藤

ボストンバックを買った。

どれにしようかななんて、大きさとデザイン性と価格を見比べて楽しんでた時間も束の間、ポチッと購入ボタンを押したときから心に大きな不安が押し寄せてきた。

買ったのは、入院のためのボストンバックだった。

洋服こそいらないが、さすがに一週間入院となるとそれなりの荷物がある。前回の肝生検時に使ったありあわせバックでは入らないだろうと、それなりの大きさのものを買った。旅行に出るなんてもうないかもしれないのに、旅行にも使えそうなものを買った。

ボストンバックを検索していたブラウザは、いつの間にかステロイドの副作用を検索する画面に変わっていた。

ムーンフェイスという顔のむくみや糖尿病、中性脂肪など体型の変化が出るかもしれなということを知った時、今までが壊れていく様が目に見える形で現れたらどうしようという不安で押しつぶされそうになった。

美顔フェイスローラー買おう。

不安を物欲でごまかそうとしているのか、今度はフェイスローラーを探してポチッとしていた。

今に満足しているわけではないけれど、今がなくなってしまうことの寂しさが涙になってあふれていた。もちろん治療しないといけないことはわかってる。ただ、治療して寂しい気持ちで延命することと、今を続けて短命になること、どちらがいいんだろうって葛藤があった。今でも。

私は相変わらずテレワークで仕事をこなす日がほとんどだった。推奨してくれている会社へ感謝を示しつつ甘えている。社会情勢も相まって、批判されることはないけれど、同僚たちはほどほどに出社をしていていたため、少し後ろめたい気持ちもあった。たまに会って相談したいなって思う日もあった一方で、色んな要因はあれど一番大きいのは病気になったことを発端にプロジェクトを実質上外されたことが起因して、一部の業務にかかわる人たちとソリが合わなくなった状況も含めて行きたくないって気持ちもあった。ただ、入院前に一回くらいは会社に行っておこうと思った。

入院前の最終出社の日。次会うときはこの姿じゃないかもしれない、そんな気持ちを抱きながら、会いたかった人たちの席に行った。みんなとてもやさしかった。楽しかった。この人たちのためなら、頑張って治療して早く職場復帰したいって思った傍らで、いざ席に戻った瞬間、今の業務に私の居場所はないかもしれない、次ここに座ることができるのか、病人の私がここに戻ってきたらいけないんじゃないか、そんな不安も残った。

心がすごく揺れ動いているのを感じる中で、自己免疫性肝炎のステロイド治療開始日が刻一刻と迫ってきた。

入院までにしたかった、乳腺外科の検診は間に合わずキャンセルした。

少しづつ改善されていた皮膚の状態も、ステロイドを始めたら元に戻ってしまうのだろうか。入院日の報告と薬の相談をしに行った皮膚科の先生すらも迷っているようだった。

わかってる、治療をしないといけないこと。ステロイドは悪い薬じゃない、必要な薬なんだってこと。なのに、なんでこんなに不安になるんだろう。自分でもどうしていいかわからない日々が続く。

やっとわかった病名、そしてやっと治療を始められるというのに、なんでこんなに迷ってるんだろう。

でもそれが病気と闘うってことなのかもしれない。自分の弱さと闘うってことなのかもしれない。私は闘えるのかな。

ラジオから流れてきたこの歌が頭から離れないんだ。


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