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荻上直子「川っぺりムコリッタ」感想~あなたのささやかなシアワセは、なんですか?~

1.『食べることは生きること』

「食べたい気持ちが強いってのは、生きる力が強いってことさ」

朝ドラ「ごちそうさん」より

知人のおじいさんの話です。
骨折し入院したことがキッカケとなり食事をしなくなり、最後は餓死。
戦中戦後を経験し、命をつなぐ食事の大切を私のように想像しかできないものと違って、身をもって知ってるはずなのに食べることを拒否した。

私の母の話です。
胃の3分の2を切除する手術を受け、術後、頑なまでに歩くことも食べることも拒んでいたのに、少しずつ離乳食を食べる赤ちゃんのようにモグモグごっくんするようになり元気になった。

知人のおじいさんと母との差は何か?

生きたい!と、自然に体から発する光のような熱のようなものがあるかないかの違いなのではないだろうか...。
それが生きる力なのか?

2.『泣きながらご飯を食べたことがある人は、生きていけます』

「泣きながらご飯を食べたことがある人は、生きていけます」

ドラマ『カルテット」より

小学生の時、課外授業で1900m級の登山を経験する。
バス酔いする私は登山口までのくねくね曲がった山道に酔ってしまい昼食を食べれず登山開始。
ごはんを食べていないので力がでない。
汗と、涙と、鼻水をすすりながら登った。
到着して、先生から差し入れされた「おにぎり」を頬張り、生きていてよかったー!
泣きながらおにぎりを食べた私は、生きていける。

ご飯を口に運んだ。あぁ、なんということだろう。うまい。うまい米ってどうしてこんなにうまいのか。うますぎて泣けてくる。(本文より)


空腹に耐え、初給料日に丁寧に米を研ぎ、炊いたごはんを食べた山ちゃんも生きていけるはず。
そう、本書は『食べることは生きること』を教えてくれるのです。

3.あらすじ

<簡単あらすじ>
川べりに建つハイツムコリッタ。家族も生き甲斐もなく、ひとりで生きたいと思っていたはずの「僕」は、図々しくて、おせっかいで、ダメ人間で、落ちこぼれで、繊細で、あたたかくて、人間らしい、このアパートの住人たちに囲まれ、少しずつ「ささやかなシアワセ」に気づいていくーー。



4.感想

読書の秋2022にて、スープ作家の有賀薫さん推薦本だけあって、
食べる描写がおいしそう。

炊き立てのごはんはもちろん、塩辛も、すき焼きも、嫌いな牛乳だって飲めそうだもの。

どの場面を読んでも映像が目に浮かぶ...っと思っていたら、著者の荻上直子さんは映画監督さん。
監督作品である本書も松山ケンイチさん主演で、すでに映画公開されているようです。

そして、タイトルの『ムコリッタ』

耳馴染みのない言葉なのに、心の真ん中ではなく片隅がぽわんと温かくなる。
また全編通し、ぽわんと温かくなる作品で、そのぽわん理由がわかりました。

ムコリッタ(牟呼栗多)は、
仏典に記載の時間の単位
のひとつのようです。
1日(24時間)の1/30、48分を意味する言葉です。
そして「刹那」は最小単位で、1刹那≒0.013秒
刹那に時間があることにびっくり。

なにもしていない。
なにも考えていない。

いてもいなくても同じ僕の存在(本文より)

山ちゃんのように、落ちるとこまで落ちた経験もなく、家族もいて、仕事もあっても...でもね、いてもいなくても同じ存在の感情は常に横にある。

でも、なにもなくはない。
だって、常に時間は流れ生きているのだから。

どんな金持ちだってどんな大物だって、超スペシャルなビックイベントに毎日大感動しているわけじゃないだろう。むしろ誰しもが毎日のちょっとした出来事に泣いたり笑ったりしているのではないだろうか。(本文より)

ビルゲイツだって、岸田総理だって、ジャニーズだって、嫉妬するライバルだって、憧れの君だって...。

いいなー、羨ましいなーだけの人生じゃない。不安に押しつぶされそうになっても、ささやかなシアワセをガソリンに明日も生きていける。

山ちゃんは、ハイツムコリッタのみなさんとの交流で、しゃべってごはん食べて...ささやかな生活の愛しさがガソリンになった。
食べることが生きることでささやかなシアワセにつながるから。

私のガソリンは、ささやかな読書に、ささやかなおやつに、ささやかな「いいね」。
ささやかなシアワセかな♡

あなたのささやかなシアワセは、なんですか?

#読書の秋2022 #川っぺりムコリッタ #読書感想文


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