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岩井圭也「文身」感想~ふたりでひとり~

凄いものを読んでしまった!
こんな設定よく思いついたよ。
設定に度肝を抜く作品だったYO!

作者が直接に経験したことがらを素材にして、ほぼそのまま書かれた小説を『私小説』というが、本書は!なのだー。

虚構を現実にしてしまう。

小説を書くために荒唐無稽なことも本当にしてしまう。

たとえば、飲み屋で暴れて警察沙汰を起こしたり、恐喝して金を巻き上げたり、果ては殺人をも(((゚Д゚)))ガタガタ

一人は計画を立て小説に書く。
一人は、小説に書かれた事を実行する。

ふたりでひとり。


本書は、ある兄弟の虚構と現実が混ざり合い何者になっていくのかを、手に汗を握りながら、息をもつかせぬ展開に緊張しながら...読み手も体験する一冊だった。

己の破滅的な生き様を私小説として発表し続けた文壇の重鎮、須賀庸一。彼の死後、絶縁状態にあった娘のもとに、庸一から原稿の入った郵便物が届く。遺稿に書かれていた驚くべき秘密――それは、すべての作品を書いたのは約60年前に自殺したはずの弟だということ。さらには原稿に書かれた内容を庸一が実行に移し、後から私小説に仕立て上げていたという「事実」だった……。


昭和三十八年の秋。

思慮深く他人に心を許さないが、成績優秀で親からの信頼も厚い中学生の弟の堅次。

能天気ですぐに他人を信用し不器用だからこそ親からも馬鹿にされ暴言と暴力を振るわれる兄の庸一。


退屈な現実から逃れるためにここではないどこかへ行きたいと願う弟。
実行に移すために、弟は自殺したことにし社会から消える。

消えても何者かでいるために弟が選んだ道が小説家。
表の世界に出ることができない弟のかわりに兄の名で小説を発表する。

ふたりでひとり。

選んだのが『私小説』

私小説といえば、好色で、酒好きで、暴力や借金。
救いようのない出来事が次々描かれるイメージがあるように、破滅的な小説を書くために、破滅的な生活も送った作家もいると弟にそそのかされ!?説得させられ...酒場で暴れるだけではなく要求がだんだんにエスカレートしていく。


虚構を生む才能を持つ弟。
小心者だと思っていたのに虚構を現実にする才能のある兄。

もうね、兄の目線で描かれるから読み手の私も、次はどんな要求が待ってるんだよーー!ドキドキもんよ(;;⚆⌓⚆)


で、次の要求は何?
えぇぇぇーーー!弟よ!それはないよー!
もっと面白い小説が書きたいからって...。

神話が書きたい。
伝説になる作家になるために、家族殺しは神話に不可欠や。
兄に妻を殺すことを要求するのだった。

己の分身にして、決して消えることない刺青―文身。それが堅次だった。(本文より)


分身で文身である弟のとんでもない要求にどう兄は答えを出すのか?

この続きは、読んでほしい。

最後まで息をもつかせぬ展開で、最後の最後にもうひと驚きする鳥肌なセリフが待っているから。

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