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夏の夜に落合のコンビニで

夏は夜だと思っている。暑さが和らいだ中で、風が吹けばさらに良い。
こう思うようになった原体験は、高校生の頃の”夜遊び”だったように思う。

ガラケーを取り出す。ぱぱぱっと「今夜空いてる?遊ばない?」と文字を打ち、ざっと読んでから送信ボタンを押す。時間もそうかからずに返信がくる。「いいね!じゃあ校門で」そうして夜の予定が決まっていった。

高校3年生の頃、部活がひと段落ついてから時間を持て余すようになった。大学進学を考えていたので受験勉強をしていたのだが、なんとなく身が入らず、勉強しながら「暇だな〜」と考えていた。つまり勉強している時間は無の時間だと思っていたのだ。

そこで、指定校推薦が決まっている友達にそれとなく声をかけながら、夜にコンビニやファミレスに集まって話すということをしていた。友達からは決まって「勉強大丈夫?」って言われたが、「今日だけ〜」とか言いながら、わりと頻繁に遊んでいた。


夏休み。学校も休みになり受験勉強に集中する時期に、私は中途半端に勉強して、漫画読んで、音楽を聴いてということを繰り返していた。これまで部活で家にいないことの方が多かった自分にとって、ゆるゆると毎日が過ぎていく感じがなんか退屈で、また友達を誘ってはでかけるようになった。

この時期、よく優歌と遊んでいた。友達の友達くらいの関係性だったが、進路のことで情報交換をすることがあり、なんだか息が合って遊ぶようになった。

コンビニの前にある逆U字型の銀色のポールに腰をかけて、一緒にアイスを食べていた。
「大学いったらどんなことしたい?」
「俺はマスコミの勉強して、将来的に雑誌とか作りたいんだよね」
「いいねいいね。聴いているだけでワクワクする」
「優歌は?」
「うちは動物に強い興味があって、…」
そうやって互いの夢を語り、背中を押し合っていた。


優歌と話す時間は、自分を見つめ直すような時間だった。なぜマスコミの勉強をしたいのか、なぜ雑誌を作りたいのか、そして大学にいくことでなぜその道に近づくことができるのか。質問をもらうことで、自分の考えが深まっていく感覚があった。

そして普段は昼間の学校で会っている友達と、夜のコンビニでTシャツ短パン姿で会うことが非日常的で、暗さも相まって恥ずかしいことも語れる時間だった。優歌と話すと勉強をする意義が少しわかった気がして、なんとか机に向かえるのだった。

季節が変わって秋、冬、そして春。なんとか私は第一志望の大学に合格し、優歌も大学に合格できた。「お互い大学を楽しもうね」と卒業式で笑いあい、大学に行ってからは1、2回連絡を取っただけで、次第に疎遠になっていった。


32歳になってまた夏を待っている。夏の夜にわくわくして、誰かと話したいなと思うときがあるのは、優歌と語り合ったあの日があったからなのかなと思う。元気にしてるかな。またコンビニで一緒にアイス食べたいな。


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