見出し画像

ボードゲームは学びになるか(3)

さて、前回はボードゲームは学びになるかについて話を進めるために、そもそも「学び」とは何かについて考察しました。その中で学びの種類を以下のように分けました。

  • 学びは「覚える」ことでる。覚える知識には未活性な知識と活きた知識がある

  • コツや技などスキーマを身に着けるのも学びである

  • スキーマを一般化(他に応用)するのも学びのひとつである

さて、この3点を観点として分析をすすめてもいいのですが、スキーマの定義がまだ少し広すぎるのと、スキーマの程度(複雑さ)について測る材料がないためもう少し掘り下げてみましょう。

そこに論理的思考はあるのかい?

論理的思考って聞いたことがありますか?知育ゲームはもちろん、知育教材などでもよくうたわれる言葉です。では、論理的思考とはなんでしょうか。

色々な定義の仕方がありますが、一般的には「論理に従って因果関係を整理し順序立てて考えること」です。”論理にしたがって”なので、なぜその行動をしたのか理由を問われたときに「なんとなく」と答えるようであればそれは論理的思考をした結果の行動とは言えません。

論理的思考を考える上で「7並べ」というトランプゲームを例に考えてみましょう。7並べのルールについてはこちらに詳しくありますので読んでみてください。7並べは自分の手札を全て出し切れば勝ちです。また、他のプレイヤーに4回パスさせればそのプレイヤーを負けさせることもできます。

7並べの論理的思考

7並べの勝利は「自分のカードを全て出しきること」です。自分の手札がすべて連番になっていて自分の番に手札を出し続けられるということは極まれで、多くの場合は他のプレイヤーが持っているカードを出してくれないと、出せないカードというものが手札にあります。他のプレイヤーに是非そのカードを出して欲しいのです。

しかしそれは他のプレイヤーにとっても同じこと。あなたが持っているカードを出してくれないとその次を出せないと思っているプレイヤーもいます。特に7の隣のカードである6と8は重要で、このカードが出ないとその列の先のカードはいつまでたっても出せないのです。

7並べは自分の手札が出せない場合、パスすることができます。しかしパスは3回までと決まっていて、4回パスしたプレイヤーは負けとなり全ての手札を場に出す必要があります。負けたプレイヤーの手札が全て場に出されれば自分のカードは出しやすくなり、有利になります。

つまり7並べにおいては「自分の手札に影響の少ない列の6と8、その周辺はギリギリまで出さない」という戦略をとることが有利に働くことが多いことがわかります。もちろん自分の手札や相手の手札の状況によってはその戦略をとることで不利になることもありますが、基本的にその戦略をとって複数回プレイすれば勝率は高くなるでしょう。

7並べは論理的思考を「培う」ゲームか?

このように7並べにも論理的思考をすればゲームが有利になる要素はあります。しかし、7並べは論理的思考を培うゲームだ、というとなんだか違和感を感じるでしょう。

おそらくそれは、仮に上記のような戦略をとらなかったとしても配られた手札によっては勝てる点にあると思います。とにかく場にあるカードの隣を出す、という戦略でも勝てる時は勝てます。しかしその戦略でプレイする場合、そこに論理的思考はありません。

論理的思考をしなければ絶対負ける、もしくは圧倒的に不利、といったゲームであればゲームに勝つために論理的思考をするようになります。例えば子供向けのゲームで言えば「アルゴ」や「ゲス・フー」のようなゲームは適当にやっていてもまず勝てません。裏を返すとこれらのゲームは論理的思考の素地のない子はいつまでも勝てないので、親やファシリテーターが上手にコツを教えてあげなければすぐにこのゲームをやる気をなくすでしょう。

なぜ論理的思考の話を始めたかというと、スキーマの範疇にある論理的思考とそうではない経験則(定石)を切り分けるためです。

ババ抜きに論理的思考はあるか

繰り返しになりますが論理的思考は論理学的、数学的に正しい、必ず(もしくは高確率で)そうなるということを導き出す考え方です。例えば、トランプゲームに「ババ抜き」というゲームがありますが、ババ抜きには論理的思考によってゲームが有利になる場面はあるでしょうか。

例えば、ゲームの終盤、残っているのはあなたと相手の二人だけです。相手のカードが残り2枚になったとします。そして、相手がババを持っていることはわかっています。右側のカードに手を伸ばすと相手は嬉しそうな顔をした。左側のカードに手を伸ばすと残念そうな顔をした。おそらく右側のカードがババに違いない。このように考えるのは論理的思考と言えるでしょうか。

結論から言うと、これは論理的思考ではありません。なぜなら、カードに手を伸ばされたときにどのような顔をするかはその人次第であり、数学的にその確率が高いと言える根拠は何もないからです。このように論理的には根拠はないけど、これまでの経験を元に考える事を経験則と呼びます。

ちなみにババ抜きに論理的思考によって有利になる場面として唯一あり得るのは「前の人が、その前の人からとって手札に入れたカードは、自分の手札にあるカードとそろう確率が高い」という場面だけです。もちろん前の人がカードを毎回シャッフルする人であればこの場面は訪れません。

「経験則」のスキーマ

さて、前回スキーマというコツや技を習得することを学習という話をしましたが、このスキーマには経験則によるスキーマがあります。つまり、論理的・数学的に確かとは言えないけれど、経験上こういう場面ではこうするのがよかったといったものです。経験則で判断することで勝ちに近づく場合もあれば、そうでない場合もあります。

だからと言って経験則のスキーマを獲得することが無駄というわけではありません。ゲームの中で経験則のスキーマが一切構築できないゲームは、ゲームとしての面白さを一つ失っていると言ってよいでしょう。「ハゲタカのえじき」のようなゲームは確率を考える論理的思考と経験則のスキーマのバランスがうまくとれたゲームです。

将棋は論理的思考のゲーム?

さて、今回論理的思考と経験則のスキーマについて話をしてきましたが、論理的思考のみで遊ぶゲームというものはあるのでしょうか。

例えば将棋やチェス、オセロなどは運の要素は一切ありません。そしてできる行動は有限なので、全てのパターンを考えつくすことができれば、ゲームとして先手が勝つか後手が勝つか決まっているのです。しかし、そのすべての手を調べつくすのは不可能と言われています。なぜなら1秒で1兆手を調べることができるスーパーコンピューターを使っても100億年かけないとすべての手は調べられないほどそのパターンが膨大だからです。

そのため、将棋のプロはこれまでの同じような場面を覚えてその場面ではこの手が有効だったという、ある種の経験則も使って考えます。この将棋の場面を棋譜と言いますが、棋譜をたくさん覚える、対局でそれをためて経験則を貯めることが重要なのです。もちろんこれは経験則なので、覚えていた棋譜のとおりに打ってももちろん勝てるとは限りません。

論理的思考だけのゲームは勝負が決まっている

では、完全に論理的思考だけで遊ぶゲームはあるのでしょうか。実はあります。マルバツゲーム、または三目並べと呼ばれるゲームです。紙の上に井の形の線を引いて〇と×を交互に書いて直線上にそろえば勝ちというゲームです。

マルバツゲームを遊んだことがある人はわかると思いますが、このゲームはお互いに論理的に考える人であれば必ず引き分けになります。ゲームとして遊べないのです。

この三目並べのルールを元にしたゲームに「ゴブレット・ゴブラーズ」というゲームがありますが、こちらは遊べます。なぜなら、マルバツゲームに比べて選べる行動が多く、将棋のようにパターンが無数にあり、必勝のパターンというものがあるのかもしれませんが通常は見えにくいからです。

さて、今回の要点をまとめると以下のようになります。

  • スキーマには経験則のスキーマがある

  • 論理的思考をしなければ必ず負ける、圧倒的に不利になるというゲームであればゲームに勝つために論理的思考をしなければならなくなる

論理的思考を培うゲームであるかどうかは、そのゲームにおいて論理的思考をする、しないが勝敗にどれだけ影響を及ぼすかを分析してみるのがよいかもしれません。

次回はゲームの難しさと学びの関係を考えるために、ボードゲームをプレイするのに必要な基本能力について話をしたいと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?