![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/100728215/rectangle_large_type_2_368656be5a7d6102f3f143b70ade9482.png?width=1200)
ボードゲームは学びになるか(2)
さて、前回ボードゲームは学びになるかという問題提起をしました。しかし「学び」そのものについての認識が一致していないと話が嚙み合わなかったり、何かは学んでいそうだ(言葉にはできないけど)というような結論に着地してしまったりすることがあります。ボードゲームの学びについての話が迷走しないために、まずは「学びとは何か」という話から固めていきましょう。
まずは辞書で確認
「学ぶ」を国語辞書で引いてみると「教えてもらっておぼえる。見習って知り覚える。勉強する。学問をする。」とあります。これを広く解釈するなら、何かしら覚えたり身に着けたりするものは学ぶ、学びであるということも言えます。
そうとらえると何かしらの活動を行う前と後で変化があれば、人は何かを学んだことになるので、そこから「人生における活動はすべて学びである」ということも言えてしまいます。しかしそれでは「そのゲームは〇〇力を育むと言えるのか」という具体的な何の学びになるのかという疑問の答えにはたどりつけないので、もう一歩踏み込んでみましょう。
学んだ?学んでない?
先ほどの「学ぶ」の説明の中に「覚える」という言葉が二回でてきます。学びは知識を得る、記憶することと関連が深いことがわかります。では次の例のうち、どちらが知識を得たことになるでしょう。
電話番号を何度も聞いたけど、覚えられなかった。
電話番号を何度も聞いて覚えた。
この場合、前者は明らかに知識を得ていません。後者は「覚えた」のですから知識を得たと言えます(単純記憶は知識ではない、という人もいるかもですがいったん置いといて)。
では次のケースです。以下のような3人がいたとき、それぞれ知識を得ているでしょうか、いないでしょうか。
20の英単語を覚えようとした。しかしその単語を次の日にはすべて覚えていなかった。
20の英単語を覚えた。次の日の英単語テストで100点をとることができた。しかし単語を覚えただけで、その単語をつかった英作文はできない。
英語のゲーム実況をしたくて実況に使える英単語を20個覚えた。しかし次の日の英単語テストには出ない単語なのでテストは0点。しかし、覚えた英単語を使って毎日英語でゲーム実況をしている。
1は活動は覚えようとしても思えられていない、つまり活動の前と後で何の変化も起こっていません。活動をした後に何の知識も残っていない状態を「学んだ」という人はいないでしょう。
では2はどうでしょうか。覚えた単語で英作文ができなかったとしても単語を「覚えた」ことには変わりないので知識を得たと言えます。3はどうでしょう。テストの点数はとれなかったですが、実際に20の単語を「覚え」、ゲーム実況を英語でできているのでこれも知識を得たと言えます。それでは2と3の違いはなんでしょうか。
未活性な知識と活きた知識
最初の例の電話番号についてはそれを覚えておけば便利、という性質のものです。ただし電話番号は数字の羅列であり、その順番を正確に覚えたからといってその人に電話をかける以外の用途には役立ちません。一方、英単語は本来それを使って意志や意味を伝える道具です。2の場合、単語を覚えたという意味では知識を獲得していますが、本来の目的である道具として使えていない、本来の用途を達成できていません。このような知識をここでは「未活性な知識」と呼ぶことにしましょう。
一方、3は英語を言語としての本来の用途で使えています。これは「活きた知識」です。大急ぎで補足しておくと、先ほどの未活性な知識はダメだとかそういう話をしたいわけではありません。知識として覚えたけど”その時点では”活かせていない知識であるというだけの意味です。未活性な知識をたくさん習得し、それをつなぎあわせることで活きた知識となる場合も多々あります。たとえば掛け算の九九です。覚える時はただの呪文のように声に出して覚え、未活性な知識かもしれませんが、それを覚えて実際の生活で使うことができることを学べばそれは活きた知識になります。
知識を活かすコツや技「スキーマ」
また2のケースを未活性な知識と言いましたが、それは「覚えた英単語を道具として使えない」という側面から見た場合です。彼は英単語を覚えるために、その単語の成り立ちを辞書で調べたり、類義語を調べたりすることで単語を記憶しやすくなる、という「覚えるためのコツ」を身につけたとします。この覚えるためのコツというのは英単語に限らず、記憶が必要となる他の場面でも使う事ができる、つまりそれを技として活かすことができます。このような考え方のコツ、技をスキーマと呼びます。付け加えるなら先ほどのような未活性な知識を活きた知識にできている場合は、知識を活かすスキーマを獲得できているからと言えます。
ただし、スキーマを獲得する事と、そのスキーマを様々な場面で活かせる事は別の話です。前の例で言えば、英単語の覚え方のコツ(スキーマ)を獲得したけど、彼はそれを漢字の学習に活かせるということに気づかずそのスキーマを英単語を覚えることにしか使えていない、という場合もありえます。
スキーマの一般化「他の活動に応用できるか」
スキーマに関してはそれをどれだけ「一般化」できるかというのが一つのカギになります。「スキーマの一般化」をわかりやすく言うと「その技を他に応用できるか」ということです。
ボードゲームで説明するなら、あるボードゲームを遊んで勝つためのコツ(スキーマ)を身に着けたとします。そのスキーマをそのゲームだけで活かせるのか、それとも他のゲームにも活かせるのか、もしくはもっと広く学校の勉強や生活の中で活かせるのか、というのはその人がそのスキーマをどこまで一般化して活かすことができるか次第です。つまりスキーマの一般化には幅があるということです。
「学び」そのものを本格的につきつめていくとともっと細分化したり、逆にもっと抽象化してまとめることもできますが、今回の目的はボードゲームの学びを追求することなので学びそのもの追求はまた別の機会にしましょう。
次回は実際のボードゲームがここで挙げた要素をもつかどうかをみながら、そのゲームに学びがあると言えるかについて掘り下げていきたいと思います。
そのゲームで知識を得られるか。得られるとしたらそれは「活きた知識」か
そのゲームでどのようなスキーマ(コツや技)を得られるか
そのゲームで得られるスキーマはどのくらい一般化できるものか(他のゲームや勉強、日常で使えるか)
2のスキーマについては、その深さ(複雑さ)もあります。それについてはいずれ「ルド・ストラクチャー」という概念を使って説明する回を設けたいと思います。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?