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Old Soldier の複業探訪(6)

「あなたになにができるのかが、分からない」
改めて経歴書を眺めてみると、たしかにご指摘のとおりである。酒でも吞みながら、自分が歩んだキャリアを振り返るにはよくできた「作品」だが、これを読んで、この人に金を払って何かを頼もうとは思わないだろう。気を取り直して、先ずは経歴書を書き直す事にした。「マネジメントの依頼なんて、ないんですよ」に悩むのは、もっと後で良いだろう。

書き直すにあたっては、ひとつのヒントがあった。これもまた、我社が開催した「セカンドキャリア支援」目的のウェビナーで得たものだが、曰く「自分のキャリアを細切れにしろ」である。
たしかに、ソフトウェア品質保証にせよ業務プロセス改善にせよ、どのような手法・段取りで組織課題を紐解き、解決へ導くのか、そのスキルを示さない事には、読む人にとっては雲を掴むような話である。そこで、経歴書を「私ができる事」と題して、組織課題の特定から解決までの手順を文字通り「細切れ」にして、ひとつのスキルセットとして示す事にした。そして、幾度かのプロセス改善を通じて編み出した私独自のこの手法には、いささか自信もあった。

プロセス改善と云えば、ISO-9000やCMMIなどのお手本を示して、これが世界標準ですなどど喧伝するものは数多あるのだが、そういうものを現場に押し付けたところで、「やらされ感」の醸成にこそなれ、課題解決にはつながらない事が多い。一方で私が着目するのは、云わば「真実」である。
とかく「事実」の積み上げを求める人が多いのだが、業務プロセスの課題とは一言で云えば人間関係であり、もっとも重要な事は個々のステークホルダの目に現状がとのように見えているかである。「事実」と云うものを「客観」と捉えるならば、「真実」は人それぞれの「主観」である。仕事を通じて時間と空間を共有していても、それがどのように見えるかは人それぞれで、不満はその人の主観の中から生まれるものである。そうした不満を持つ人たちに対して、客観的事実はこうこうです、と説明したところで何の納得感もなく、これから始まろうとしている改善活動そのものへの新たな不満を生むだけである。村上春樹氏は、「ねじまき鳥クロニクル」でこう云っている。「事実が真実とは限らないし、真実が事実とは限らない」。まさに、その通りだと思う。

と云う事で、私は先ず、すべてのステークホルダーに対する徹底したヒヤリングから事を始める。そして、個々のヒヤリング結果をQC七つ道具のひとつである、連関図にまとめてみる。すると面白い事に、たいていの場合、個々の連関図をつなぐ接点が見えてくるのである。これが云わば、「すれ違いのポイント」である。この「すれ違いのポイント」をつないで、個々の連関図をひとつにまとめ上げてみると、課題解決の為に断ち切るべき連鎖が見えてくる。この連鎖を断ち切る施策こそが、この組織にとって最も適切な課題解決の施策となるのだが、多くの場合それは、個々の「真実」から導き出された施策案とは違った、まったく新しい発想からのものとなる。

と云った感じで、品質保証やプロセス改善についての私なりの手法、段取りを細かく箇条書きにしていく。それだけでなく、現役のエンジニアとしてのキャリア、管理職としてのキャリアも同じように細切れのスキルセットに分解していく。都合4社40年に渡るキャリアを棚卸して箇条書きにするには骨が折れたが、書き直した経歴書を眺めてみると、このすべてではなくとも、一部あるいは一つのスキルに対してでもニーズがありそうな気がして、なんだか少し良い気分になった。これは恐らく、この作業を通じて自分に対する理解が進んだ事、それによって、会社や肩書ではない物差しで自分の価値を測れた事によるものだったのだろう。そして、この経歴書を見て初めて、複業を得るにあたっても会社や肩書を売りにしようとしていた自分の浅ましさに気付き、深く恥じ入った次第であった。

「複数のマッチングサービスを使え」。ライフシフトラボのインストラクターは、そう云っていた。この長大な経歴書をまた一から書く事はできないので、それをそっくりWordにコピペして、この日の作業は終了。すっかり疲れてしまったので、ビザスクやそのほかのマッチングサービスへの登録は改めてやる事にして、PCを閉じた。(続きは次回に)

ここまでお読み頂いて、ありがとうございました。
このとおり、老兵の複業探訪を不定期で、時折、世相に対する世迷い事を織り交ぜながら発信して参ります。

どうぞ、よろしくお願い致します。


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