Sonic Youthの軌跡を辿る② (「初期」の見取り図)
Sonic Youth(以下、適宜SY)について、主要アルバム16枚(+α)を振りかえる企画記事。
前回記事、プロローグはこちらから。
今回は、その起りからメジャーデビューまでの「初期」について。
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時期ごとに、大きく2つに分けて書いていく。
「見取り図」
達成や功績、音楽性の文脈やらをざっくりまとめる。外側的な(音を聴かなくてもおおむね文章で分かる)ことを書く。往年の名作ゲームの紹介記事のようなもの。
「アルバムヒストリー」
もう少し具体的に歴史を追う。そしてアルバムや曲の特徴など、内側的な(音を聴いて人それぞれ掴む)ことを書く。ゲームのプレイ記事のようなもの。
今回だけ、文字数の関係から記事を分ける。この記事は初期の「見取り図」部分。教科書的な記載が多めなので、興味のない方はサクッと飛ばして「アルバムヒストリー」に向かっても大丈夫です。
それでは本題へ。
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注記
・引用や補足は※にて記事末尾にまとめています。
特に示していない発言はこちらが引用、参照元です。
・画像は、出典と思わしきURLをリンクに貼っています。
・アルバム画像はAmazonリンクに飛ぶので、気になる方はご注意。
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初期SYの功績とは
「初期」に焦点を当てるなら、大きく2つの達成(功績)があげられると思う。
■80年代NYアンダーグラウンドの生き字引として
ニューヨークは多くの音楽の流れを生み出してきた都市だ。特に70年代半ば、CBGBにつらなるミュージシャンたちの影響力は計り知れない。Television、Patti Smith、Ramones、Talking Heads……詳細は以下の記事に詳しい。SYの面々もまた、こうした伝説にふれて音楽を志した者たちだ。
→唯一無二のライブハウスCBGBの歴史
その興隆も歴史として過去になった80年代前後のNY。そこには「次の流れ」を作らんとするさまざまな動きがあった。ポスト・パンクを突きぬけ、知性と感覚でもってロックはおろか"音楽"まで解体せんとした「ノーウェーヴ」。パンクの重心を腰でなく"肩近く"まで上げることで、踊るのでなく"駆ける"、つまりは"暴動"に結びつけた初期「ハードコア」(そこから発展し、暴力性を保ったまま重心を下げていったのが中期Black FlagやMelvins、異種がSwans)。また、新しい流れを期待したのはリスナーも一緒で、MTVとは異なる価値観を打ち出してみせたのが「カレッジ・チャート(CMJ)」だ。
この3つすべてにSYは在った。彼らはこうした流れのなかで生まれ、その流れを「ムーヴメント」にまで拡張していったバンドのひとつだ。プロローグで書いたように、その記念碑として『Daydream Nation』は在る。
■インディシーンの開拓者として
先の通り、80年代初頭のNYアングラには「動き」があったが、その多くは地下の「蠢き」であって、メジャーはもちろん、外への広がりはあまりなかった。対してSYは、(自身の音楽性を譲る気はさらさらないが)明確に「自分たちの音楽を広げる」という意識をもって活動していた。そこには、先人たるBlack Flagのインディ的なツアーの試みがまずある。その功績についてはこの記事が詳しい。
→Black FlagとSonic Youth
SYの面々はアート全般に強い関心を持っていたため、Black Flagとはまた異なる領域に仲間を増やしていった。オルタナやグランジまわりのバンドを追うと、「サーストンのコメント(レコメンド)がやたら引っかかるな……」という経験がないだろうか。実際、いつインタビューを見ても大抵なにかのバンドを褒めているのだ※1。そんな風に他を惹きつけながら、特に注目も集めていないアンダーグラウンドシーンの名もなきバンドが、自らの手で自らの音を外に広げていき、浮足立つことなくメジャーにまでたどり着いた。その後ろ姿は単純にすごい。
野田努は「僕にとってSYは80年代」※2だと言い切る。著作『ブラック・マシン・ミュージック』(名著)にて、荒廃した産業都市デトロイトから、いかにして人々がテクノ、もとい未来を切り拓いたかを、抒情詩的に綴った筆者だ。そんな"推進力"のようなものを、80年代のSYにも感じたんじゃないだろうか。「初期」の軌跡はそうした開拓史である。
彼らの躍進には、なにか一発逆転のような転機があった訳ではない。彼らはただ、人とのつながりを大切にしながら、果敢に挑戦し、着実にやっていき続けた、それ"だけ"だ。この記事で詳細までは書けないので、気になった方はぜひ評伝※3を一読してほしい。
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初期SYの音楽性(ルーツ)とは
「初期」なので実質「ルーツ」みたいな感じだ。参照項の多いバンドだが、ここでは「ノーウェーヴ」と「Glenn Branca」に絞って書き出す。
■ノーウェーヴの継承者
初期SYは、先に書いた「ノーウェーヴ(No Wave)」に強い影響をうけている。「ノーウェーヴ」をちゃんと語ろうとすれば、それだけで記事が終わってしまうが(上の『No New York』から辿ろう)、それは言葉どおり、要は「No」という意思表示であった。当事者のLydia Lunchはこう語る※2。
その音楽性は、一言でいえば「アンチ・ロック」または「音楽の解体」。その歌詞と存在は強烈な異物として社会に向かった。意思表示は音楽にとどまらず、映画、写真、ファッションと、様々な表現が絡み合うムーヴメントだった。
後追いの自分たちは、「ノーウェーヴ」のそうした特徴の多くが、SYという存在にも当てはまることが理解る。ノイズを撒きちらしながら、都市の犯罪部を取りあげ、メジャーとアングラを行き来する存在。印象的なMVとアートワーク、独自ブランドの設立……だからSonic Youthは、70年代末に一瞬の伝説として潰えるはずだったノーウェーヴの精神を、80年代に引きつぎ、果てはメジャーシーンにまで持ち運んでしまった存在、ともいえるだろう。SYの掲げた「No」は後に「Alternative」の語に代わって刻まれるが、それは「中期」にて。
■Glenn Brancaとの出会い
グランジ世代の多くのバンドにとってSYは"兄貴分"的な存在だが、もちろん(?)、SYにも兄貴たる先輩がいる。初期のバンドを、音楽的にもキャリア的にも"育てた"といっていい超重要人物がGlenn Branca。『No New York』の選からはもれたが、ノーウェーヴ期に活動を開始し、エレキギターの可能性を突き詰め、交響曲的な取り組みに発展していった音楽家だ。ノイズ、ポストロックの諸バンドに与えた計り知れない影響はPitchforkの記事に詳しい(10点満点作)。Neu!の拡張系、クラウトロックとノイズ・シンフォニーから前衛音楽まで、その射程はひたすら広い。
彼の音楽がSYの作曲美学にもおおきな影響を与えている。変則チューニングのギターを重ねたハーモニー(ノイズ)、低音側にない着眼点、長尺の横軸をとっての音の変遷の辿り方。特に「The Ascention」のノイズの広げ方は、SYの理想形のはず。上のジャケは代表作『The Ascention』のものだが、反社会的にクールなセンスもまさにだ。単にポストパンク〜ノーウェーヴ〜Sonic Youthと辿るより、この人を挟むことで、見晴らしもはるかに良くなるはず。初期SYをたどるさい、ぜひ一緒に聴いておきたい※4。
→R.I.P. Glenn Branca (ele-kingの追悼記事)
そして見逃せないのは、SYとして作品を出す前のサーストンとリーが参加していること。ここでの貢献からSonic Youthは見いだされた。機会を与えられた彼らは、Glenn BrancaのレーベルからEPデビューを果たすのだ。
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「初期」のざっくりとした概要、外側の話はこんな感じ。興味がわいてきた方は、ここでいったん区切って、音源にあたってみてくれたらうれしい。
SY自身の具体的な音楽性についてあまり触れられなかったけども、これは内側の話として、ストーリーを追いながら各アルバムを振り返りながら見てみよう。CDやらサブスクを手にとって、あるいは文字から想像を巡らせながら、どうぞ。
引用・注記・補足まとめ
※1. Dinosaur Jr.やNirvanaへのコメントが有名だが、例えば※2の雑誌インタビューでは、NYで気になるバンドとして、インタビュアーが提示したGang Gang DanceとAnimal Collectiveを「それは有名どころ」としたうえで、当時アルバムを出したばかりのSIGHTINGSを褒めている。
さらにはインタビュー元の雑誌をして「この雑誌は……『remix』ね!古い号で(ボアダムスの)アイの特集のやつ持ってるよ!」と発言してみせる。レコードマニアの面目躍如だが、こんなん絶対ひとに好かれるやん……と思わされる。生粋の人たらしですよコレは。
※2. 『remix 2009年7月号』より。Sonic Youth、およびArt PunkとNo Waveの特集あり。
※3. 公式の評伝『ソニック・ユース』参照のこと。
※4. 初期SYなら、Gelenn Brancaは『Lesson No. 1』('80)、『、『Symphony No. 1』('83)あたり。特に太字作が熱い。ちなみにSYに偏って聴くリスナー(自分)だと『Symphony No.5』('96)あたりは「後期SYRシリーズかな?」と錯覚するくらい。SYはより自然発生的な即興性に重きをおいて、似たアプローチを試みたんじゃなかろうか、というノイズ素人目線。
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