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Sonic Youthの軌跡を辿る①(プロローグ)

ソニック・ユース。

80年代のニューヨークに出で、ポスト・パンク~ノーウェーヴ~ハードコアが蠢くアンダーグラウンドから、無名のインディバンドが自らの手でその音を広げていくための道標を残す。

90年代
にはメジャーに活躍の場を移し、グランジやオルタナの潮流を導きつつも、自身はその波に飲み込まれず独自の地位と音楽性を確立。

00年代
にはポスト・ロックにまで自身の音を更新しながら、各人がSSWとしての才能を開花させていった。

NYの先人たち――Velvet Underground、Ramones、Patti Smith、Televisionなど――への憧れとともに始まったバンドは、30年弱の時をへて、自身もまた一部として、その碑に歴史を刻んだ……。

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そんなバンド、Sonic Youth(以下、適宜SY)について、主要アルバム16枚(+α)を振り返りる企画記事。

今回は、実際にアルバムを追っていく前のプロローグ。


基本メンバー

・Thurston Moore(サーストン・ムーア) – vocals, guitar
・Lee Ranaldo(リー・ラナルド) – vocals, guitar, keyboards
・Kim Gordon(キム・ゴードン) – vocals, bass, guitar
・Steve Shelley(スティーヴ・シェリー) – drums

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画像右から、ムーア、リー、キム、シェリー。
本記事では、各人について適宜この略名を用いる。



プロローグ 
Sonic Youth、『Daydream Nation』を聴いた時の今昔

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Sonic Youthといえば、一般的に「グランジ」前後の作、『Daydream Nation』『Goo』『Dirty』あたりを取り上げられることが多い。この3作のどれかから入った方が大半じゃないだろうか?

2000年半ばにYoutube片手後追いした自分もそうだった。SYはRadioheadあたりから「オルタナティヴ・ロック」の語を辿って知った。音楽性は「ノイズ・ロック」とあり、バンドには「アンダーグラウンドの帝王」という言葉が添えられていた。何かふつうとは違う感じがする……そんなふうに興味を抱いた。もう記憶も朧気だけど、最初に手にしたのは確か『Daydream Nation』(以下、適宜『DN』)だ。

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『DN』を手にとったのはもちろん「Teenage Riot」を収録しているからだ。今更なにを言うまでもない、インディ・ロック(あるいはカレッジ・ロック)永遠の名曲である。

ただ、ほかの曲、アルバム全体に関しては違和感(みたいなもの)があった。名盤とされているが、どこかシックリこない。たぶん、大きく次の3点が自分の中に引っかかっていた。

1. 「そんなにヤバくない」という率直な実感
もちろん、J-POP耳からして一定以上強烈ではあった。けれど例えば、ノー・ウェーヴの名コンピ『NO NEW YORK』の、「これは音楽なのか」という問いから始まる解体の記録に比べれば、『DN』は明らかにロックっぽい。未知のトーンやノイズに溢れてはいるが、Public Image Ltdの1stに比べればまだ得体も知れる。Youtubeでパッと「ヤバい」の極北にまでアクセスできる時代に、『DN』にそこまで突出した「ヤバさ」は感じなかった。

2. 「音が軽い」
バンド演奏が浮いて聴こえる。「結構ハードそうなリフを弾いているのに、全体の音は軽めだなぁ」と感じた。

3. 「やたら長い曲が多い」
これは誰もがそう思うはずだ。イントロや歌部分はともかく、間奏、アウトロの尺がやたら長かったりする。しかも、テクニックを基にしたソロや、ドラマチックな展開とも違う、曲中に突然アテもなく彷徨いだし、その様を記録したような……なんなんだ。その辺を省けばもっと短くなったんじゃないか。

と、そんな違和感を抱きつつも、自分は、この1枚……もといSonic Youthという存在に妙に惹かれてしまい、様々なアルバムや課外活動作を集めだし、結局、今に至るまで聴き続けている。「カッコイイ」6割、「分からない」4割みたいな感じで、後者のほうの妙な引っ掛かりに不思議と惹かれたんだ。


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そして時がたった今、当時の自分の違和感に、答えじゃないが、言葉を返せるようになった。早口で。

1'. 「そんなにヤバくない」
Sonic Youthの達成は、主に「折衷」(彼らの言葉を借りれば「混沌」)にある。メジャーであり、アンダーグラウンドでもある。ノイズだが、歌でもある。異なる文脈や音楽性を、分断するでなく捉えて跨げる存在として無二だった。
『Daydream Nation』は、当時のNYアングラにあった「ハードコア」、「ノーウェーヴ」の流れを汲みながら、カレッジ・ロックを賑わせた楽曲同様「歌もの」でもある一作だ。この文脈(音楽性)の縫合がすごい = ヤバい。「この1枚によって"80年代NYアンダーグラウンド"の灯が永久に保存された」とか言える。つよい。

2'. 「音が軽い」
録音の時代的な問題もある(この辺りも初期ハードコアと同じだ)が、SYは基本的には上モノ側のトーンが行き交うさまに意識を向ける。
なので、重低音や、ヘヴィメタル的バンドサウンドの重み、とは違う角度から聴いたほうが掴みやすい。これは同郷の戦友Swansが好対照で、Swansが重低音の反復なら、SYは中高音の展開として音楽性を深めていった。そんな両者がキャリア初期に対バンツアーを行っていたのは象徴的で……みたいな話を、アルバムを辿りながら書いていきたい。

3'. 「やたら長い曲が多い」その通りだと今も思う。ただ、その間奏は、佐々木敦氏のTortoise「Djed」(ポスト・ロック)評にあるように、「プログレッシヴ・ロックのような構成美を志向するものとも、アドリブ~インタープレイの連鎖としてのジャズの在り方とも異なっている」ものに近い不思議な感覚がある。自然発生的な即興と、編集的な音の実験が重なって生まれた記録。この試みは中期の名曲「Anagrama」にて結実し、2000年代にはまさに「ポスト・ロック」として「Free City Rhyme」にたどり着く。
※答えになってない

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……とか。なにか久々に聴いたら、いろいろ感じるものがあった。

Sonic Youthは、たぶん一番よく聴いてきたバンドのひとつだ。期せずしての解散からはもう10年近くたった。自分が聴き始めてからは15年くらいたった。別にキリのいい数字でもないけど、そんなバンドについて、何か書き出してみたくなった。



記事の目的(目標)のようなもの ※読み飛ばせる

仰々しく始まってしまったけれど、姿勢を崩しながら、視線をある程度定める。例えばここに、有志のSY入門フローチャートがある(出典不詳)。

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これは素晴らしいものだけども、こう簡単にまとめられない部分があって、そこにもう少し言葉があっても面白いはずだ。

この記事は大きく2つの思いから進めている。

■1. Sonic Youthの見取り図を作る

このごろ、TwitterにてSYの話題をしばしば見かけて、人知れずを感じていた(気のせい)。ただ、その中には「Sonic Youthはよく分からない」という呟きも結構あった。

確かにSYはかなり人を選ぶバンドだし、よさが分からない奴は云々なんて高尚な奴らでも勿論ない。とはいえ、「よく分からないが、どんなもんかは知りたい」「単純に作品数が多くて、入口がよく分からない」って人は結構いるんじゃないかと。自分としても、最近彼らの伝記的なドキュメントを読み、その軌跡から辿れるものの広さ、大きさに改めて感銘をうけたところだ。

1つめの目的(目標)は、Sonic Youthのちょっとした見取り図を作ること。
・どんなバンドで、何を成したのか?
・どんなアルバムがあって、どのように変わっていったのか?
・どんなシーンに在ったのか?
彼らの活動を追うことは、ポスト・パンクやノーウェーヴ、グランジ、オルタナ……つまり「インディ」を再考することであり、今にも繋がるはずだ。


■2. 個人的な視点をまとめる

意気込むものの、彼らについては既に多くの記事がある。例えば、的確な引用により彼らのポリシーを端的に記したこの記事(自分が最も影響をうけたサイトでもある)。数か月前にすでに全アルバムを振りかえり終えた海外記事。とうぜんRolling Stone誌Pitchforkにも記事があるし、自分が今さら書き足せることは特にない。

だけど、1リスナーの偏った視点から書けば……"音"に対して「自分がどう聴いて(感じて)いるか?」を言葉にできれば(とても難しい)、正しさや説得力はともかく、ほかの記事と一辺倒にはならないはずだ。また、個人的に思い入れを持つのが『Washing Machine』~『Rather Ripped』なので、あまり取り上げられないこの辺を補強、もとい推したい

2つめの目的(目標)は、とある1リスナーの視点を書き出すこと。
・どんな音を出していると感じる(形容できる)のか?
・それぞれのアルバムにどんな違いがあると感じるのか?
・関連作は?
SYにはリスナーそれぞれの着眼点があるはずだ。その数あるひとつとして書ければ。

まとまめると、ある程度の正史に基づく「見取り図」として成立(1)させつつ、自分の聴き方を添える(2)感じを目指す。



本題へ

Sonic Youthは、基本的に同じことをしているが、同じ場所には決して留まらなかったロックバンドだ。その30年間の軌跡には、今一度目を向けるべき理念と知性がある。

あまり知らないという方には、まずは文字だけでも、その存在を把握するキッカケに。
既知や往年のファンの方には、そんな風に聴くんだぁと再考するキッカケに。
そして『Daydream Nation』『Goo』『Dirty』のどれかを聴いて興味を失ってしまった方には、もう1作なにか手に取ってみるキッカケになれば、大成功だ。

Sonic Youthの軌跡を辿る。

<更新予定>
・Sonic Youth 初期 〜80年代NYにConfusion is nextを掲げた者
 →初期の見取り図 
 →
初期アルバムレビュー
・Sonic Youth 中期 ~Alternativeとは
 →『Goo』『Dirty』レビュー
 →『Experimental Jet Set, Trash and No Star』『Superstar』レビュー
・Sonic Youth 後期 ~NYの碑へ


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