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水とディストピア『サトゥルヌス菓子店』を読む。

安井高志氏の歌集『サトゥルヌス菓子店』。

この歌集は一筋縄ではいかない
難解だが透明感がある。
イメージ詠で詩寄りの世界観の短歌も多い。
「水に沈んだ町」という連作も収録されており、
本の装丁の水色を思わせる。

好きで付箋を付けた短歌から、
水に関するものを一部紹介する。
※海、雨など水を連想させる言葉がある短歌。
※収録順。

終電はいってしまったかみそりはお風呂の水のなかでねむる

『サトゥルヌス菓子店』10ページ

いくつかの名前を忘れる朝焼けに 海をただよう一冊の本

『サトゥルヌス菓子店』58ページ

あの鳥もこおりが溶けていくようにいつかは水に変わってしまう

『サトゥルヌス菓子店』61ページ

珈琲のなかでくずれて溶けていく角砂糖 雨の日はひとりだ

『サトゥルヌス菓子店』81ページ

かぎりなく透きとおる水 目を閉じて ねむりがすぐに満ちてくるから

『サトゥルヌス菓子店』110ページ

海底に沈んだ図書館たくさんの栞がわりの白い鳥たち

『サトゥルヌス菓子店』111ページ

冬の夜にペットボトルの水をのむ くらくてつめたい透明ってやつ

『サトゥルヌス菓子店』136ページ

川の中の石を思うとしんとした音楽が耳の中にみちていく

『サトゥルヌス菓子店』150ページ

あまいあまいケーキを焼いてあげようきれいな海にきみがなるまで

『サトゥルヌス菓子店』155ページ

小説を雨に溶かそう 言葉だけたべるプランクトンのいる海

『サトゥルヌス菓子店』183ページ

水槽のせかい手紙の宇宙船つらいのですよ聴こえてますか

『サトゥルヌス菓子店』216ページ

ディストピアのような危うさと、水のような透明感が魅力で、
美しいだけではなく不穏さや怖さもある。
この作者にしか作ることが出来ない作中世界だと思う。

最後に歌集から一首。

ぼくはいま言葉を残す ああ空に ひかりが みちて ここにいるよ 雪

『サトゥルヌス菓子店』76ページ

サトゥルヌス菓子店 (COALSCCK銀河短歌叢書) https://amzn.asia/d/hOA1vzI

最後までお読みいただきありがとうございました。 もっと面白い記事を書けるように日々頑張ります。 次回もお楽しみに!