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夕方の森、鳥の囁き、友人への贈りもの。

夕方から夜に向かう時間帯の森の気配というのはこれから明るくなる朝の時間帯、たっぷりした日差しが差し込む日中とも違う。少しだけ「しん」としていて、ひやりとした空気と相まってどこか静かなのだ。

「チリン、チリン、チリン」と身につけている熊鈴が小さいけれど、心地よい音を響かせる。「エンパシーベル」と名付けられた友人が販売している消音機能のついた真鍮削り出しのクラフト品だ。その音は「カラカラ」といういわゆる市販品のものではない。小さいけれど良く響くのだ。

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そんな鈴を身につけ夕暮れの森を進む。ゆったりと左に巻き込むように降る未舗装林道を過ぎるといつもの鳴き声が聞こえた。どんな鳥かはわからないけれどそこに差し掛かるとしっかりとした同じ音量で、同じ鳥が結構な確率で鳴くのだ。山遊び、ハイキングのアイテムにバードコールというものがある。ペンダントやキーホルダーのようになったアイテムで、木をこすり合わせるとどことなく鳥の鳴き声のような音を出す。それに呼応するように鳥が囁くというアイテムなのだが、どうやらその鳥 - 申し訳ないが、姿も見えないし、鳴き声だけでなんの鳥かわかるほど私は鳥に詳しくない - は、下りで響くこのベルの音に反応して鳴いているようなのだ。 何とも微笑ましい。

「こんばんは。」と独り言を言う。その付近では鹿の親子も見ることが出来た。そして「お邪魔します」と言う。夕方、森は一日を終え、皆それぞれの寝床へ帰る時間だ。息を切らせ標高600mほどの、自分の暮らす街を一望できうる目的に着く。少し悩み…と言うか、迷うことが多い友人にそこからの風景を写真に撮り送信した。

「さ、帰ろ」と、独り言を呟き、ヘッドライトをつけ、少し薄暗く、少し赤紫に染まった風景をまた森の中に戻っていった。仕事が終わり16時から走り始めてもこうした素晴らしい景色に出会うことができる。ここでの私の生活はそんなことを可能にする。私が選んだ私の暮らし方。そうでない暮らしをする、ここに暮らさない友人に「ここにある空気が届けばいいのに」とその気持ち以外に届きようもない美しい景色を贈ってみた。「共感」と名付けられたベルの音とともに、それからしばらくして森は当たり前のようにすーっと暗闇に包まれていった。



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