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離れる。


少年のときの話。
父親を少しだけ驚かそうと思った。

二人だけで、買い物に行った。

父親と町まで行って、スーパーで食材を買う。
それだけのことだったのだけれど、僕が唐突にいなくなったら、きっと驚くだろうなと、遊び半分で思った。

スーパーを出て、隣の道の壁にうずくまる。
父親が、レジを済ませて、出てくる。
僕がいないことに気づく。
慌てている。そこに僕が顔を出す。
はずだった。

「……」
父親がいつまでたっても出てこない。
僕は不安になり、スーパーの中に捜しに行くのだけれど、いない。
外に出てもいない。

「……」
混乱。
僕はやみくもに父親が近くにいるはずだと捜し始める。
が、どこにもいない。

「……」
気がつくと、来たこともない場所にいて、どこへ戻ればいいのかすら分からなくなっていた。
不安。
そして、恐怖。
実は、買い物も口実で、初めから、僕は捨てられることになっていたのかすら思い始める。

バタバタと速足で歩き、どこかを求めウロウロと歩く。
と、唐突に、肩を掴まれ、振り向くと、父親だった。
「見つけた」
と、父親が笑っていた。
「……」
僕は、呆気にとられ、そして泣いた。
大声で泣いた。

父親は戸惑い。
「え、どうした? かくれんぼしてたんじゃないの?」
と、僕を抱きしめた。

僕が、途方もなく、異世界に思えた場所は、スーパーのすぐ裏で、捨てられたと思った僕は、父親のすぐ近くにいた。

その後は、どんなに離れていたとしても、父親を近くに感じることが出来ている。そんな気がしている。

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