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しょうもなく、しょうがなく。


夜逃げした夜。
家族で小さな食堂へと寄った。

知らない街の、初めて入る食堂。
母は、努めて笑い、僕はまだ小学校に入る前の幼さだった。
ただの旅行と思っていたのか、それとも、そんなことすら感じていないで、両親になんとなく連れられていたような、そんな時間。

僕は、チャーハンを食べて、父と母は、なにかの定職を食べていた。
その時のことをよく覚えている。

父がずっと、箸で煮物のイモを挟めないで、ずっとコロン。コロン、と転がしていたからだ。
「……」
僕は何となくそれを眺めていた。

父親はとくに表情を変えることなく、イモを転がす。
取れそうになるのだけれど、スルンと箸の間を抜けていく。

「……」
父はイモを転がす。
「……」
僕はそれを見ている。
「……」
母は黙々と食べている。

僕は、イモが転がるたびに、父親がいつ諦めるのかを期待していた気がする。
しかし、父はずっとイモを転がしていた。

一度、挟み、五センチほど持ち上げて、またスルンと転がった。
僕は、なんとなく、気まずくなり、ふと目をそらし、でも気になってまた見ると、

「……」
イモは既に器にはなく、父親が、モグモグと口を動かしていた。

「……」

成功した?

あれから、十五年が過ぎた。
僕は大学へと進み、今度両親がアパートへと遊びに来る。

密かにイモの煮っころがしを出すのを楽しみにしている。


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