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夕暮れと焚火の前ではみんな素直になる。


彼女と別れたのが、初雪の日。
今は真夏の真っ最中。

色々と納得できないことをゆっくり整理するなんて、言いながら、いつまでたっても、その事実から目を背けようとしている。

思い出の品を、靴が入ってた空き箱に詰めることで精いっぱいだった。

ああ言った、ああ言われた、あの言葉はなんだったんだ、僕は悪くない、そのことについてもう一度確認したい、なんて、いつまで経っても煮え切れない。

「お前さ、もう、振っ切っても良いんじゃねぇの?」
と、友人の蒲生に言われた。

「納得がさ……」
「お前が納得いこうが、どうだろうが、事実は事実。とっとと、切り替えないと、なんか、顔がうるさいんだよ」
「だってさ、何がダメだったか検証しなきゃまた失敗するかもしれないじゃん……」
「縁がなかった。それだけ。誰かと結ばれてる奴でも誰かに振られてる奴だったりするのがあたり前だろ」

うじうじしている僕に、蒲生は、
「よし、儀式をしよう」
「儀式?」

そういうと、蒲生は、僕が丁寧に本棚に置いていた、「思い出の品」が入った箱を手にして、

「捨てに行こうぜ」
「……えー」
「うるさい。顔がうるさい」

そして、サークルの女の子二名にも連絡して、「今から、こいつの元カノとの思い出の品を捨てに行くよ」と、宣言してしまった。

僕と蒲生は、レンタカーして、サークルの女の子二人を乗せて、海へと行った。

女の子たちは、蒲生のことが好きなので、キャッキャッ言いながら、ついでに「元カノ消え失せろー!」とか言って騒いでる。

「……」

箱の中には、彼女からもらった手紙、プリクラ、一緒に見た映画の半券、メモ書きとか、そんなもの。
女の子たちが、車の中で、キャッキャッと読んでいる。
「元カノ目がデカいねー」
「プリクラだから」

海辺に車を止めて、四人で流木を集めて、箱の上に乗せ、火をつけた。

夕暮れ。
焚火。
なぜか、他の三人は、焚火の前だと静かだった。
「え、なんか、ありがとう」
と、お礼を言ってしまった。

「まあ、みんな何回か振られてるしさ」
と、一人の女の子が言った。
もう一人の女の子も、
「大丈夫、まだ顔がちょっとうるさいけど」
と言った。

蒲生が、
「思い出を燃やすという新たな思い出封じ」
と、ニヤリと笑った。

勢いと、勝手な思いやりと若さ。
焚火。
「……」
少しだけ、胸の痛みが和らいだ気がした。



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