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知り合いの娘さんを映したビデオを眺める。


蒲田さんの娘さんを記録したビデオを見ることになった。
「今度さ、娘が結婚するんだよ」
と、蒲田さんが言った。

「一人で眺めたっていいんだけどさ、付き合ってくんない?」
ということで、なぜか、うちに来て、そのビデオを見ることに。

蒲田さんは、リュックにDVDを詰め込み、大量の缶ビールを持ってやってきた。
「この前さ、テープだったのを業者にDVDにしてもらったんだよね。結構いい値段したんだよ。けど、誰も見ないっていうからさ」

上映会が始まった。

なんの映像だろ。誕生日なのかな、ブレブレのカメラに、ピントが合っていない映像。ロウソクの灯りがぼやけて、全体もぼやけた映像。で、たまにピントが合って、娘さんの笑顔。
「五歳だよ」
「へー」

というと、五歳からか。娘さんいま何歳だっけ、二十歳は過ぎてたよなぁ。

淡々と、何とも言えない映像を眺めている。
蒲田さんは無言でビールを飲みながら、画面を見つめていた。

「……」
「……」

ずっと眺めていると不思議な気分になってくる。
こんなに一人の女の子を追った映像もなかなか見ないものなぁ。と。
凝縮した時間。五歳が唐突に、入学式、劇の発表会で、隅っこで何か歌ってたり、少し成長して運動会。集団の行進。
小学校の卒業式、中学になり、組体操してる。
けど、ものすごくブレブレと、ほぼ娘さんだけの映像。
体育座りして、なんか待っている表情。
卒業式で、横を通り過ぎる。で、後ろからの頭。

ずっと映像はブレブレだし、アップで娘さんばかり映している。
でも、次第に控えめな表情の娘さんが愛しくなってくる。
集団の中の戸惑い。
決して主役では無い立ち位置。でも映像だけは常に娘さんを追っていた。
「……」
これが、蒲田さんの視点なんだなぁ。

ふと、見ると、蒲田さんが酔っぱらって眠っていた。

「パパ、いつも勝手すぎ」
と、中学生ぐらいの娘さんが、画面の中から言っていた。

「右に同じ」
と、僕は呟き、一人でビデオの続きを眺めた。




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