見出し画像

ポジション。


電車が駅について、ドアが開くと、作業員が四人入ってきた。
それぞれが、無言。視線も合わさず、距離を開けている。

電車の中は空いていた。
僕は、座席の隅でスマホをいじりながら、その四人をなんとなしに観察した。

全員が青いツナギ。
それぞれが、清掃道具を手にし、立っている。
年齢はバラバラ。
男三人。女子一人。
若い。中年。高齢。おばちゃん。
の四人。

特に仲が良さそうな気はしない。
あまり知り合いでもないのかもしれない。
当日、集まったメンツで、その日に言い渡される仕事を任されているパターンかもしれない。そういう仕事は僕も昔よくしていた。
引っ越しとか、看板持ちとか、清掃とか。

別に嫌っているわけでもないけれど、仲良くなるにしては時間が短すぎる。連絡先を教えあうほど距離を詰めたとしても、その後付き合える気もしない。

よく見ると、「若い」は外を見ていて、「中年」は車内広告、「おばちゃん」は若いとは反対側の外。で、「高齢」だけは、その三人に身体を向けている状態で、斜め下を見ていた。

なにかタイミングを探しているように見えなくもない。
「高齢」は頭にタオルを巻いている。
そこに、三人との温度差を感じ、少しだけ「ポジション」を求めている雰囲気があった。

もしかしたら、既に「高齢」が、前の現場で、三人に対し、威圧的な態度をとってしまって、このメンバーの中で、冷戦が行われている最中なのかもしれない。
そして、次の現場に移動するまでに、「高齢」は、その失敗を取り戻したいのだけれど、そのタイミングがつかめない状態での、この距離感なのかもしれないなと。

まあ、想像だけど。
なんだか、そう思うと、何かしら励ましたいと思わなくもない。
けど、僕にできることはない。

なので、僕はイヤホンをつけ、スマホで、浅香唯の「GO! GO! 90'S」を聴き始める。

時空を飛び越え、80年代のアイドル浅香唯が歌う。

____ 負けないで、夢の重さにも。虹を掴んでね、走る君が好き ___

聴きながら、少しだけ「高齢」の方を見た。
虹を掴んでね「高齢」。
と思った。

今日も暑い。



よろしければサポートお願いします。大切に使わせていただきます。