見出し画像

85冊目【本のはなし】私の「父親像」とあなたの「父親像」が違います。

「オレは、父親を知らないからできない!」
「私の父も父親を知らん!でも不器用ながら父親をやってくれた!」


娘が生まれてきてから何度も繰り広げてきた我が家のバトル。それでも夫は子育てに参加をしようとはしなかった。


私の中の「父親像」は、子ども目線に立ってくれる人。びしょぬれになろうが、泥んこになろうが、徹底的に遊ぶときは遊ぶ。まさに、私の父がそういう人だった。誰よりも子どものように自由な発想をもっていた。


父との思い出は、たくさんあるが一つを上げるとこれだろう。家族でドライブに行った時だ。渋滞に巻き込まれてしまい、なかなか目的地にたどりつけなかった。のどが渇いてしまった幼子の私は、のどが渇いたと両親に訴える。当時はペットボトルなどないし、水筒もなかったと思う。

すると、
「ほんと?どれ口の中見せてごらん?」
と、運転中の父がバックミラー越しに私を見てこういったのだ。素直な私は、うなずくと大きな口をあけた。
「ああ、大丈夫。渇いてない、濡れてる。」
バックミラーに映る私の口の中は、確かに濡れている。そうか、大丈夫なのかと黙ってしまった。

おそらく母は、肩をゆすっていたと思う。あまりの華麗な手さばきは、今でも語り草だし、何度となく使われた技の一つだった。


私は父が自慢だし、大好きだ。最高だと信じて疑わなかった私の「父親像」を夫に求めたのだ。ただそれは、押しつけにすぎなかった。


しかし、当時の私は、夫の「父親を知らないからできない!」とやる前から育児を放棄するような、その発言と態度に憤りを感じたのだった。


その時から私は、父親と母親両方を演じようと決意した。当然続くわけもない。それなのに意地を張ってしまった。夫の成長なんて待ってられん!それ一点で夫から父親になるチャンスをことごとく奪っていたのだ。そして年頃になった娘が夫よりも私を優先する姿をみて「ざまあみろ!」とほくそ笑んでいた。


でも私は気づかなかった。いや、認めようとしなかった。夫は夫なりに、父親として不器用ながら娘と面と向かって接しているし、娘も父を全面的に信頼している。それは、本来私が目指してほしかった姿だったのに、嫉妬していた。


複雑な感情を持ったまま、世の中はコロナ禍になった。ステイホームと叫ばれて、仕事以外は家にいる夫との会話が増えていった。内容は家庭のこと、特に育児に関してだった。当時の私の心情は「何をいまさら・・・」だったこともあって、会話というよりも喧嘩ばかりの毎日。彼の意見を真向から「違う」「そうじゃない」とすべてに対して反論。


その日もやっぱり二言目には、ファイティングポーズをとってしまった。「だから、子どもには大きな声で言ったって意味がないんだ!」と夫。
「ちがう!そうじゃない、叱るんじゃなくて意見を聞かなければいけないんだよ。わかってる?」


私のセリフが終わるか終わらないかのうちに、鏡写しのように首をひねった。かみ砕けば同じことを言っている。認めたくない気持ちと怒りの引っ込みがつかなくなった。


「おんなじこと言ってるけどね!」と言ったと同時にふき出してしまった。かなりの遠回りをしてしまったが、夫がようやく見えた。彼は彼なりに、娘の小さいころの自身の関わりに対する後悔して、それを払拭するべく今の娘と懸命にまっすぐに関係を築こうと試行錯誤していたのだ。


しかし、この怒りは何とも根深くて、未だにこの感情はぶり返してくる。先日もまた、喧嘩を売ってしまった。
「あの時のあなたは、何もしなかった。だから娘が、私の味方になった時にざまあみろって思うんだよ!」


恨みつらみを投げつけてしまった。しかし彼は、喧嘩など買わずにただ一言。「その恨みはいつまで続けるの?」と問いかけてきた。その時は、お前がそれを言うなと思ったが、自分でも疑問であった。


その時たまたま、読んでいた本がこちらだ。


ママは家族のクリエイター: 子ども見守り隊日記(安河 杜生子)


著者は、同年代のお子さんの育児をされているお母さん。彼女も育児に関して悩みもがいていたそうだ。そこから脱却するべく、出会った川口正人氏が主宰する「育児ラボ」に参加。そこで学んだことを実践したことで母と子、そしてご主人にまで変化が訪れたという。その出会いから変化、現在までの記録を本にしたのが本書だ。

実践したことの基本は、「信じて見守る」こと。いきなりそれを言われてもできない。ただ著者は2年かけて学び、今もなお実践しているという。一番の驚きは、ご主人も彼のやり方で育児に参加したことだ。


今までの私だったら、この本を夫に強く勧めていただろう。しかし、夫は、夫のやり方で父親として試行錯誤しながら育児をしている、同志だったのだ。それならば「信じて見守る」しかない。だって彼も私を「信じて見守って」いてくれたのだから。


本書は、ついついパートナーの育児に口を出してしまいがちな方に、おススメの一冊だ。


この記事が参加している募集

よろしければサポートお願いします!いただいたサポートはクリエイターの活動費として使用いたします。