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短編小説『月明かりに照らされて』
カーテンの隙間から、月明かりが差している。
その殺菌灯のような薄紫の淡い光は、美月の右の頬を掠め、肩を超えバスローブの合わせ目からのぞく豊かな山裾に達していた。
それは白いバスローブと、それに劣らないほどに白い美月の肌を、薄いマリンブルーに染め上げていた。
美月が傍らで心地よい寝息を立てながら眠っている。
妻のバスローブを着て、私のベッドにいる。
私は、もう一度彼女の豊かで形の良い乳房を見たいと思った。
月明かりにそれを晒してみれば、どれだけ美しい事だろう。
それは、オークションで手に入れた名画を自宅に持ち帰って、一人きりで鑑賞したくなる心境と同じだ。
しかし、私にはバスローブの合わせ目をこじ開けるような勇気はなかった。
本来ならば湧きあがって来るはずの罪悪感は、何処に行ってしまったのだ。
むしろ、私はある種の充実感に満たされている。
自ら執刀した患者の、その後の順調に回復している経過を観ている外科医のような心境になっていた。
彼女は、私に全てを委ねてくれたのだ。
私は、患部を見逃さない医師のように、彼女の全身をくまなく丁寧に読み取った。
美月は、それに応えてくれた。
彼女は、従順な患者だった。
私は、それだけで十分に満足している。
肉体的なこともあるが、一線は越えなかった。
いや、超えることが出来なかった。
熱狂的な民衆に祭り上げられても、革命を起こすことはできなかった。
その後傲慢に変容する王となるより、夢破れた革命家になる方を私は望む。
心までは、征服することは出来ないのだ。
私は、それで良かったと思う。
月明かりが、私の心の中にまで差し込んできた。
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