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短編小説『荒れ狂う大地の中のオンナとオトコ』
「何と呼んだら良いですか?貴島さん」
オトーサンが突然消えた。
ワタシは抱きしめられた。
そして、唇を塞がれた。
ワタシは、繭のような柔らかいものに全身を包まれたたように感じた。
オトーサンは、鎧を身にまとい、剣を手に持った。
そこには、オトーサンは、いなくなり一人の兵士がいた。
脈絡もなしに放課後の教室で、高校生の時に一緒にバンドを組んでいたヤマギシ君と二人きりになった時を思い出した。
ごつごつしている中にも、弾けるような筋肉に覆われた腕。
甘酸っぱい汗の匂い。
もみあげの生え際の青い影と白い頬のコントラスト。
それらが鮮明に蘇った。
雨が降り始めた。
雷も鳴った。
ワタシは、それを部屋にいて外の景色を見ているように感じる。
貴島さんと言う存在の繭の中に包まれている。
ずっとこの繭の中にいたい。
貴島さんは、柔らかい唇になった。
貴島さんが、おずおずとワタシの中に入ろうとしてきた。
貴島さんがヤマギシ君になったような感覚になった。
そう、あの時に感じた記憶がまた蘇った。
ワタシはオンナ。
ヤマギシ君はオトコで、ワタシはオンナ。
あの時は驚きと戸惑い。
今は安らぎと好奇心。
鼻の奥で、蜂蜜レモンの味がする。
雷が鳴り響く嵐の中、貴島さんに守られている。
貴島さんに包まれている。
ワタシは、もっと激しくなればいいと思う。
もっと、もっと激しくなって、荒れ狂って欲しい。
その方が、強く貴島さんに優しく包まれていることを感じるから。
オトーサンが貴島さんになった。
抱きしめられて、ヤマギシ君になったと思った途端、大人になって貴島さんになった。
抱きしめて、もっと強く。
もっと強く。
ワタシは、貴島さんをもっと感じたいの。
包まれているワタシの存在をもっと感じたいの。
幸せ。
ずっとこのままでいたい。
荒れ狂う大地の中で、貴島さんに抱きしめられ続けていたい。
幸せ。
ワタシを包んでいてくれる人がいる。
ワタシを守ってくれる人がいる。
なんて幸せなのだろう。
ワタシは、頬を打つ激しい雨の中に、暖かい自分の涙が流れ出るのを感じた。
貴島さんが、ワタシから離れた。
暗闇に浮かぶ貴島さんの目からも、涙があふれていた。
これらの作品と合わせてお読みいただければ、ありがたいです。
https://note.com/okouchi340045/n/naefee170b1f8
https://note.com/okouchi340045/n/n77201d1ec73c
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