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短編小説『遠くを見つめる瞳に嫉妬する』

花火って、すごく綺麗。

こんな風にビルの間から、遠くの花火を見ることって素敵。

次々に打ち上げられる花火は、色々なパフェに見えたり、豪華なブーケに見えたりして、間近で見る花火よりいいかもしれない。

オトーサンのセンスは、すごいなと思う。

そんなところに大人を感じる。

音もなしに浮き上がってくる花火は、ワタシの心の奥にずしんと響いてくる。

次々に現れる綺麗な花火を見るごとに、心の中が、明るくなっていくような気がする。

隣のオトーサンを見た。

面接官のような、優しさを無理やり押し殺したような顔をして花火を見ていた。

でも、目だけは違った。

オトーサンの目は、花火を映し出したように輝いていた。

少年のような目をしていた。

そう、それはまさしく高校の時にバンドを組んでいたヤマギシくんの目と同じ。

久々にヤマギシくんの目と出会えた。

ヤマギシくん、今頃どうしているのだろう。

ずっとこのまま花火を見ていたかった。

いつまでも、次々に浮かび上がる作品を、少年の目をしたオトーサンと一緒に見ていたい。

終わらないで欲しい。

花火の浮き上がらない暗闇が来るのが怖い。

オトーサンの目が、輝きを失うのがつらい。

だから、何時までも、花火を見ていたかった。

周りの人たちが帰ってしまって、オトーサンが何か落ち着かない様子になった。

「ワタシ、最後まで見て良いですか」

フィナーレを瞼の奥に焼き付けて、エンドロールを見ながら、その映画の余韻を楽しむように、暗闇に花火の余韻を感じながら帰りたい。

そう思った。

通りすがりの知らないおじさんがやってきて、ワタシたちを父娘と間違えた。

どうやらフィナーレが始まったよう。

次々に花火が浮き上がってきた。

ワタシは、花火を映し出したオトーサンの目が見たくなった。

そこには、花火はもう映し出していなかった。

オトーサンは、遠くを見つめるような目をしていた。

父娘と間違えられたので、きっと娘さんを思い出しているに違いない。

視線の先は、娘さんに向けられている。

ワタシは、オトーサンの娘さんに嫉妬した。

オトーサン、ワタシを一人にしないで。

ワタシを置いていかないで。

心の中で必死に叫んだ。



こちらの作品と、カップリングになっています。合わせてお読みください。


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