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雪の日

2006年12月

私の住む地域にも雪が降る。
関門海峡を雪雲が抜けて雪を降らせにやって来る。
それをいつも嬉しそうにしていたのは祖母だった。

朝起きて朝食を食べて皆が一息つく中で、ひとり祖母の姿がない。廊下に面する窓から積もりそうな雪が降っているのを、ぼーっと眺めていた。
すると、玄関の外から祖母の声がする。


母と一緒に戸を開けてみると、左手にスコップ、右手にバケツを持った祖母が満面の笑みでやって来た。
バケツには雪がこぼれそうな程、入っている。

「雪だるま作ろうか。」

私よりも子供のようで、私は初めて大人になれた気がした。祖母が1人で雪だるま作りを楽しむのは悪いことだと思ったので、家族みんなで作ることにした。
張り切り具合は負けていたけれど、無心で雪を集める楽しさを知った。

祖母は少し離れたところからも雪をかき集める。この近辺の雪は自分のものであるかのように、歩きづらい雪道も物ともせずに力強く進む。
白い雪に上下紫色のつなぎが映えていた。
そういえば、祖母は紫色の服をよく着ているなあと思った。やっぱり魔女のようだった。


雪だるまは私の身長よりも大きく、祖母と同じ高さのものが完成した。
玄関前に居座っていた。門番をしてくれるみたいだ。明日晴れると消えてしまいそうだけれど、そんなこと想像したくなくて、天気予報のニュースは見ないようにした。



子供心のない母が夜、
「明日は晴れるって。」

なんて言ってしまったから、私はあの雪だるまを想って少し悲しくなった。
永遠の別れが明日来るかもしれないなんて、6歳の私には早すぎる。私はまだ新しく作ればいいという案を思いつけなくて、せっかく作った雪だるまと別れることになるかもしれないのに、のんきにお茶を飲んでいる祖母のことを不思議に思った。



雪が止んできた夜中。いつものように祖母と寝ようとした時、祖母は魔女だからまた雪だるまを作ることができるということを思いついた。
魔女なら何でも修復可能だ。
それなら、雪だるまよりも一昨日壊れた私のおもちゃを直してもらう方がいいな、と一瞬にして優先ランキング1位の座が自分のおもちゃに変わり、翌日の朝には雪だるまの存在をすっかり忘れていた。
祖母におもちゃの修理をお願いしたら、直してくれたのでやはり魔女であっていた。

ルンルン気分で外に出た時、わずかに雪は残っていたが門番役の雪だるまはいなかった。
私は少し祖母を疑った。

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