呪術

はじめて呪術を受けた時のこと

タイの呪術師

タイには「呪術師」と呼ばれる人がいて、その種類も多岐にわたる、そうだ。
そうだ、と書いたのは、自分の目で見たことのないものは実感がないからです。
黒魔術も未だ存在し、欲や私怨、恋愛成就のために黒魔呪術師を頼る人もいるらしい。黒魔術を使うのは良くないことで、自分に跳ね返ってくるよとタイ人は言っていたけれど、それでも頼る人はいるんだそうだ。
祈祷師や、仙人と呼ばれる人もいる。もちろん人間で、専業でない人もいる。
そういった話を聞くのは、なんだかおとぎ話のようでおもしろかった。
実際に祈祷師を呼んでの新築祝いの儀式に参加した時も、物珍しくてわくわくした。
剣を掌に押し付けたり、巻きたばこを一気に何本も吸いながら祈祷する強そうなおばちゃん祈祷師がキティちゃんのデコ車で帰っていくのとか、めちゃくちゃおもしろかった。

モーバオ

いくつかあるという呪術の中に「เป่า (バオ)」という、「吹く、息を吹きかける」という意味の呪術がある。
BとPの間くらいの発音だけど、バオとしておきます。
私ではなく息子さん1が受けた呪術がこのバオです。

いつだったのかはっきりとは覚えていないのだけど、あれはたしかタイに来て半年も経っていなかった頃だと思う。
当時3歳だった息子さん1が、生まれて初めて便秘になってしまった。
3~4日目ぐらいはまだのほほんと構えていたものの、一週間も経つ頃には熱も出て口中に口内炎ができ、水を飲むのも痛がって泣くようになってしまった。

妊娠中以外便秘になったことのない私もどうしたらうんちが出るのかおろおろするばかりで、すがる思いで行ったクリニックや病院でもらった薬を飲ませても効かないし、みかんを絞ったジュースも効果がなく、毎日毎日おなかのマッサージをするも一向に出ない。
おしりの穴もちょっと開いてしまうぐらいすぐそこにあるのに、幼い腹筋では硬くなったうんちを自力で出せないようで、あせる気持ちだけが募った。
ネットを読み漁り、綿棒にたくさんココナッツオイルをつけてほじくり出そうとまでしたけどダメだった。

息子さん1が口内炎を痛がって泣くのを見て、ホームステイ先のママが勧めてくれたのがバオを受けることだった。
「ポー(お父さん)がモーバオだから、診てもらいなさい」と。

えっ あの普段畑をやっているあのお父さんがですか、と少々びっくりしたし、「息を吹きかけて治療をする」もそうだけど更に「遠隔で知人の骨折を治したこともある」とか、遠隔でって息吹きかけられないですやんみたいな、正直な気持ちを言うと信じ難かった。

けれども、藁にもすがりたかった私はポーもといモーバオにすがることにした。

バオによる治療

近所に住んでいるママのポーはすぐに来てくれた。
息子さん1の口の中を少し見ると、片膝を立ててしゃがみ、その上に息子さん1の頭を乗せて抱きかかえた。

息子さん1に口を開けるように言うと、呪文のようなお経のようなものを聞き取れないぐらいの音量でぶつぶつと唱え、フィッ フィッと2~3回小さく短く息子さん1の口に息を吹き込んだ。
そして終わった。

みじかっ!!である。

想像よりもずっと短かった。え?もう終わり?と思ったけど、終わってた。

そのあとお花やお供え物の乗った小さなお皿を持たされて、「これに200バーツ(約600円)を乗せて庭の隅にお供えしなさい」と言われたので、言われるがままに従った。
私が庭に供え終わると、ポーがそこへ行ってお線香に火をつけ、何やら唱えて、最後に200バーツだけ抜き取った。
200バーツはお布施ならぬ治療代なのでしょう。
こんなこと(失礼)で治るのであれば安いものだ。

そして…

バオを受けてすぐには効果は表れず、あいかわらずかったいうんちは息子さん1のおしりの中に居座ったままウンともスンとも言わない。
そんな即効性がある訳ではないのだろうから、様子を見るしかないな…
ああでも、これで治らなかったらどうしよう。もう藁がないよ。そんなことを考えながら夕飯の買い出しへ。
私のごはんと、息子さん1へは飲むゼリー。それでも痛がって食べてくれるかわからなかったけど。

ふと、帰り道に通りかかった薬局のガラスケースに並ぶ、子供の絵が描いてある小さな箱が目に止まった。
勝手に箱を開けて中を覗くと、球形の薄く柔らかいプラスティック製の容器に液体が入っている。球形に、細い管のついたもの。

これは… 浣腸じゃない?

イチジク浣腸というのだろうか。生まれてこの方見たことがなかったのだけど、「これは浣腸である」と自然と理解できるフォルムだった。
隣には一回り大きい箱が置かれていて、サイズと絵柄からどう見ても子供用の浣腸だ。
お店の人に値段を聞くと「10バーツだ」と言われた。
30円。

急いで帰って、嫌がる息子さん1を押さえつけて浣腸をした。
念のためおむつを履かせて様子を見るも、1分も経たずにおなかが痛いと泣き始めたのでトイレに連れて行く。

そして…

出た。

出たよね。でっかくてかったいうんこがさ。
出たーーーーーー!!!!って拍手喝采ですよ。
がんばったねえらいねすごいねと我が子を褒めまくりました。
浣腸すごい。すごいね!
あちこち行ってあれこれ試して、息子さん1にもつらい思いをさせて。それまでのことを振り返ると10バーツの浣腸で治ったのが嬉しくもあり悔しくもあったけどとにかく治った。治ったのだ。
それから熱も下がり口内炎もみるみる消えて、すぐに元の元気な息子さん1に戻った。
なんとなく自然に出さないといけないのかなと思っていたけど、あれ以来息子さん1は一度も便秘になっていない。

あとがき

タイに6年半住んでいますが、実際に呪術を受けたのはあの時の一度きり。
なのでバオしか知りません。
そのバオも受けたすぐ後で浣腸を使ってしまったので、残念ながらその効果のほどを知ることは叶いませんでした。
最初から薬局に行くべきだった。そう思ったことはポーには内緒にしといてください。

おこめ。

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