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181. 見知らぬ人の車に乗ってみたシリーズ①

あれは私が高校生だった頃…





終電で最寄り駅に着いて
駅から家までの道のりを歩いていた
途中には見晴らしのいい丘のような場所があって
そこから見える景色が好きで
特に早朝と深夜には
ここで1人佇んでいるだけで
なんだか気持ちが楽になった

その日はこの丘にあと少しで差し掛かるというところで
前から1台の車が
ゆっくりと近づいてきた

深夜2時
不自然なほどにノロノロと
私との距離を詰めてくる
なるほどこれは怪しい
そう思ったのも束の間
運転席の窓が開いた

「どうもこんばんは〜、ごめんなさいちょっと道を聞いてもいいですか?」
20代後半〜30代前半の年齢といったところだろうか
少し気さくな
それでいて馴れ馴れしくもないような
そんな雰囲気を感じる男性だった

彼は近隣の住人ではなく
知人を訪れたはいいものの
いざ帰ろうとしたところ
地理がわからず迷い込んでしまったということだ
なんでその知り合いに聞かへんねん

たしかにこの周辺は結構入り組んでいて
そのうえ道は狭く
行き止まりも多い
大通りへの道順を教えても
どうもあまりよく分かっていないようだった

彼:「あのよかったらなんですけど、一緒に車に乗って案内してもらうことってできたりしますか…?」
私: 「あ、えーと….いいですよ!」

放っておくのもなんだか忍びなかったし
後から考えるとまあなかなか
危ない目に遭ってもおかしくはなかったのだろうなとも思う
というか彼もよく頼めるなと
いろんな意味で思った

ただ話してみると
最初に思った通り
わるい人ではなさそうだ

会社勤めをしながらバンドで音楽活動をしているらしい
車の中は関連機材でごった返していた

私: 「会社を辞めてバンド一筋でやっていくとかはないんですか?」

無邪気な私の質問に
彼は少しばつが悪そうに
苦笑いで返した

さて突拍子もないイベントが起こることもなく
道案内はすぐに終わった
まさかほんとに車に乗って案内までしてくれるとは思ってなかったらしい
丁寧なお礼の言葉を貰い
家まで送るよと言われたが
近いので歩いて帰ると言って
車を降りた
ほんとはけっこう遠かったが
私もバンドをやっていることを彼に言わなかったのは
なんでだろう
なんて考えているうちに家に着いた

なにはともあれ
困っている人がいて
それに対して
自分が何かをすることができた
さしたる変哲もない
そんなある一夜の話
それでも人に話すと少し驚かれるくらいの
人生っていいよね
なんてドヤ顔で微笑んでしまえるくらいには
思い出すとホッコリして
自分を少し好きになれる
そんな私の経験

今思い返してみると
彼に尋ねてみたいことは多くて

会いにきたという知人に帰り道を聞かなかったのにも
理由があったのか
時間も時間だったのでその人ももう寝てしまっていて
連絡が取れなかったのか
その人とはどんな関係性なのか
はたまた本当に逢いにきた人などいたのか

名前も連絡先も聞かなかった彼がこの記事を見つけて
連絡をくれたりなんてしたら
おもしろいなあ

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