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サントリー美術館「激動の時代 幕末明治の絵師たち」感想と見どころ


1.概要

サントリー美術館で開催されている「激動の時代 幕末明治の絵師たち」を観てきました。新聞の紹介記事を見て興味を持ちました。ポスターの「芸術はバクマツだ!」というナイスなコピーが期待をあおります(笑)。

江戸から明治へと移り変わる激動の19世紀、日本絵画の伝統を受け継ぎながら新たな表現へ挑戦した絵師たちが活躍しました。本展では幕末明治期に個性的な作品を描いた絵師や変革を遂げた画派の作品に着目します。

幕末明治期の絵画は、江戸と明治(近世と近代)という時代のはざまに埋もれ、かつては等閑視されることもあった分野です。しかし、近年の美術史では、江戸から明治へのつながりを重視するようになり、現在、幕末明治期は多士済々の絵師たちが腕を奮った時代として注目度が高まっています。

本展では、幕末明治期の江戸・東京を中心に活動した異色の絵師たちを紹介し、その作品の魅力に迫ります。天保の改革や黒船来航、流行り病、安政の大地震、倒幕運動といった混沌とした世相を物語るように、劇的で力強い描写、迫真的な表現、そして怪奇的な画風などが生まれました。また、本格的に流入する西洋美術を受容した洋風画法や伝統に新たな創意を加えた作品も描かれています。このような幕末絵画の特徴は、明治時代初期頃まで見受けられました。

社会情勢が大きく変化する現代も「激動の時代」と呼べるかもしれません。本展は、今なお新鮮な驚きや力強さが感じられる幕末明治期の作品群を特集する貴重な機会となります。激動の時代に生きた絵師たちの創造性をぜひご覧ください。

展覧会公式HPより

2.開催概要と訪問状況

展覧会の開催概要は下記の通りです。

【開催概要】  
  会期:2023年10月11日(水)~12月3日(日)
 休館日:火曜日 ※11月28日は18時まで開館
開場時間: 10:00~18:00(金・土は10:00~20:00)
     ※11月2日(木)、22日(水)は20時まで開館
     ※いずれも入館は閉館の30分前まで
一般料金:一般¥1,500 大学・高校生¥1,000
     ※中学生以下無料
     ※障害者手帳をお持ちの方は、ご本人と介護の方1名様のみ無料

展覧会公式HPより

訪問状況は下記の通りでした。
    
【日時・滞在時間・混雑状況】
日曜日の14:00 頃訪問しました。割と空いていて、ゆったりと鑑賞することができました。大型の屏風なども近づいてまじまじと見たり離れて全体を眺めたりと、じっくり堪能できました。気になる作品は二度見しつつ、15:30に会場を後にしました。

【写真撮影】
写真撮影は不可でした。

【グッズ】
図録以外本展オリジナルのグッズはなかったようで、その点少々残念でした…。

3.展示内容と感想

展示構成は下記の通りでした。

第1章 幕末の江戸画壇
第2章 幕末の洋風画
第3章 幕末浮世絵の世界
第4章 激動期の絵師

出品作品リストより

幕末から明治にかけて活躍した絵師たちが、それまでの伝統を受け継ぎながらも、さらに表現に磨きをかけて後世にバトンを託したことが伝わる内容でした。以前見た明治時代の美術に焦点を当てた展覧会と比べると、明治時代は官民相互に影響しながら新しい美術を確立しようとしていたのに対して、幕末の絵師たちは自らが肌で感じた時代の空気を作品に反映させていたように思いました。

会場に入るといきなりパワフルな狩野一信「五百羅漢図」(嘉永7 ~文久3年(1854 ~ 63) 大本山増上寺像)が出迎えてくれ、インパクト十分でした。この第1章では画一的と言われがちな幕末の狩野派の作品がメインに展示されていたのですが、画一的どころか各絵師が後世につながる新しい表現を追求していたことが伝わる魅力的なコーナーでした。特に先述の「五百羅漢図」は一幅一幅テーマをもって描かれていることが感じられ、第45幅の西洋絵画的な明暗表現、第96幅の漫画を思わせるような吹き出しの用い方は今見ても斬新なものがありました。

第2章では幕末の絵師たちが西洋絵画の影響をどのように受容していったのかというテーマのもと、銅版画や洋風画が展示されていました。安田雷洲の銅版画は以前見た亜欧堂田善の作品に比べ誇張した表現を抑え写実性に重きを置いているように感じられ、西洋絵画の論理的な面が当時の日本ですでに受け入れられていたことが伝わりました。一方で同じ安田雷州による洋風画「赤穂義士報讐図」(江戸時代 19世紀 公益財団法人 本間美術館蔵)はシュールな作品でした…。17世紀の西洋絵画「羊飼いの礼拝」の構図を下敷きに赤穂浪士が吉良上野介を討ち取った場面を描いているのですが、壮絶なはずの場面と浪士達の慈愛に満ちた(?)表情のちぐはぐさが際立ち、西洋絵画の技術面は取り入れられつつも精神面の隔たりはやはり大きかったということが偲ばれました。

会場内撮影スポットより

続く第3章では歌川国芳の作品を中心に幕末の浮世絵を紹介していて、より過激でインパクトのある表現を追求した当時の潮流が感じられました。一方でいち早く開港した横浜の様子を描いた「横浜浮世絵」と呼ばれる作品群からは浮世=この世を描くという浮世絵のジャーナリスティックな側面が見えました。

最後の第4章では月岡芳年、菊池容斎、柴田是真、小林清親といった明治以降の美術に影響を与えた絵師たちの作品をまとめて見られて、日本美術の連なりを感じられました。渡辺省亭(菊池容斎の弟子)、新版画(小林清親の光線画がルーツと思われる)など後代の作品の方になじみがあったのですが、「渡辺省亭の優美な人物画は師匠譲りなのかな」といった影響関係であったり、「柴田是真は蒔絵で帝室技芸員に選ばれたけどもとは画業も秀でていたのか」といった発見がありました。また歌川国芳に師事した月岡芳年、河鍋暁斎が江戸絵画の伝統を受け継ぎつつ明治の世で独自の存在感を放っていったことも伝わり、感慨深いものがありました。

4.個人的見どころ

魅力的な作品ばかりだったのですが、特に下記の作品が印象に残りました。

◆狩野了承「二十六夜待図」江戸時代 19世紀
◆歌川国芳「忠臣蔵十一段目夜討之図」天保3年(1832)頃 公益社団法人 川崎・砂子の里資料館
◆小林清親「隅田川夜」明治14年(1881) サントリー美術館
上記の3作品については「自分はこういう作品が好きなんだな」と思わされる共通した雰囲気がありました。いずれも影絵のような描写で静寂を感じさせるところが魅力でした。「二十六夜待図」は海で隔てられた仏様と人々の距離感が却って仏様の貴さを感じさせ、神秘的な趣がありました。「忠臣蔵十一段目夜討之図」は秘密作戦決行中の緊張感が漂い、ド迫力の三枚連続の浮世絵とはまた異なる国芳の魅力を味わえました。「隅田川夜」はモノクロームの世界に灯の赤が効いていて、人々の生活の暖かさのようなものが感じられました。

小林清親「隅田川夜」明治14年(1881) サントリー美術館
※会場内配布のわくわくわーくしーとを撮影

◆狩野一信「源平合戦図屛風」嘉永6年(1853) 板橋区立美術館蔵
敵味方入り乱れた動きのある乱戦の様子を描きつつ、那須与一が扇を撃ち抜いた瞬間はストップモーションで劇的に演出するという、源平合戦の山場を一双で自在に表現しているところに凄みを感じました。

◆春木南溟「虫合戦図」嘉永4年(1851)頃 神戸市立博物館蔵
虫たちが合戦を繰り広げているというメルヘンチックな作品で、可愛らしさに加えて立方体や円錐で構成された周囲の建物のデザインが印象に残りました。和風ではないのですが、どういったモチーフでこのような形状を思いついたのかなと興味が沸きました(作品の背景には開国後の列強の脅威というものがあったらしく、実際には可愛いだけの作品ではないようです)。

◆菊池容斎「向島花見図」安政6年(1859)
今回の展覧会で一番好きな作品です。桜の花びらに赤、金などワンポイント加えた華やかな描写であったり作品の隅をぼかした朧げな表現が美しかったです。水色に船や松林をデザインした額装の可愛さも印象に残りました(額装は図録には載っていないので会場でご覧になることをお勧めします)。こうした作品としての魅力に加えて、激動の時代であっても春は巡り人々に憩いの時間があったということが伝わる点も感じるものがありました。

5.まとめ

激動の時代に翻弄されるのではなく、真っ向から対峙した絵師たちの気概が伝わる充実した展示でした。会期まだありますので、興味のある方は行かれることをお勧めします!!
(前半/後半でかなり作品が入れ替わるので後半も見たくなりました。)

6.延長戦

鑑賞後は美術館に併設されている「カフェ 加賀麩不室屋」に立ち寄りました。「くるま麩のフレンチトースト抹茶」をいただいたのですが、本当にフレンチトーストでびっくりしました(原材料からすればパンもくるま麩も小麦なので不思議はないのですが…)。割と入りやすいのでこちらもおすすめです!

くるま麩のフレンチトースト抹茶

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