大好きなミステリーを再読して、発見したことを記すことにした。ミステリーの味わい深いところを書く楽しみだ。ジェフリー・ディーバー著、池田真紀子訳、ボーン・コレクターを再読した。
サスペンスは、ストーリーのつづき、つまり先のことに関心が向く。ハラハラドキドキ、次はどうなるのか、吊られた気持ちを落ち着かせるため、答えを求めて読み進めてしまう。ディーバーの作品はとくに、ジェットコースターに乗っているような展開だと評される。
くわえて読者の記憶をよびおこしたり、無意識にある感覚を刺激し、立体的な映像を思いうかばせる描写が絶妙だ。この感覚的な刺激をする要素が、ディーバーのサスペンスを味わい深くしている。あたかも作品の世界に入り込んでいる感覚になる。
嫌悪感を呼び起こす
ボーン・コレクターは、深夜、空港で出張帰りの男女が、タクシーを待つシーンからはじまる。
深夜タクシーを待つシーンは、特別ではない。日常ある光景として思い浮かべることはたやすい。そこに不吉な心理を呼び起こす表現を風景描写に重ねる。だから、浮かんだ映像には、嫌悪感という感覚がくわわり、現実味をある光景の映像と一体となって読者は、感じることが出来る。
昆虫を連想するのは、なぜかと最初は思った。昆虫のイメージが、呼び起こすのは、毒やウィルスをもつかもしれない異生物に対する嫌悪感。あるいは、人と異なる動きや形状による、不気味さ、不快感ではないか。その感覚を想起させ、さらに不快感を煽る表現がつづいている。
原作者ディーバーの英語を、日本語翻訳した、池田真紀子さんによる日本語文が、臨場感を生み出し、狙いを捉えている。
怖さが徐々に増す仕掛け
事件は起きていないにもかかわらず、この描写による嫌悪感が、不吉な予感をさせる。戦慄を生む出来事を想像させ、読者をサスペンスの世界に引き込む。
読者心理を考えたしかけだ。”ジェットコースターに乗ったようなストーリー展開”と評されるディーバーに、気づかないうちに操られ、ゆっくりとコースターは動き出している。
ジェフリー・ディーバーが、インタビューに応じた内容を紹介する。やはり、本を書き始める最初に、構想をねるために時間を多くつかっているようだ。