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物語のはじまりにある仕掛けとは? ジェフリー・ディーバー再読(2)リンカーン・ライムシリーズ 


大好きなミステリーを再読して、発見したことを記すことにした。ミステリーの味わい深いところを書く楽しみだ。ジェフリー・ディーバー著、池田真紀子訳、ボーン・コレクターを再読した。

サスペンスは、ストーリーのつづき、つまり先のことに関心が向く。ハラハラドキドキ、次はどうなるのか、吊られた気持ちを落ち着かせるため、答えを求めて読み進めてしまう。ディーバーの作品はとくに、ジェットコースターに乗っているような展開だと評される。
くわえて読者の記憶をよびおこしたり、無意識にある感覚を刺激し、立体的な映像を思いうかばせる描写が絶妙だ。この感覚的な刺激をする要素が、ディーバーのサスペンスを味わい深くしている。あたかも作品の世界に入り込んでいる感覚になる。

嫌悪感を呼び起こす

ボーン・コレクターは、深夜、空港で出張帰りの男女が、タクシーを待つシーンからはじまる。

深夜タクシーを待つシーンは、特別ではない。日常ある光景として思い浮かべることはたやすい。そこに不吉な心理を呼び起こす表現を風景描写に重ねる。だから、浮かんだ映像には、嫌悪感という感覚がくわわり、現実味をある光景の映像と一体となって読者は、感じることが出来る。

無限に続くタクシーの黄色い行列。その色と相似形の繰り返しが、どこか昆虫を連想させた。

ボーン・コレクター

昆虫を連想するのは、なぜかと最初は思った。昆虫のイメージが、呼び起こすのは、毒やウィルスをもつかもしれない異生物に対する嫌悪感。あるいは、人と異なる動きや形状による、不気味さ、不快感ではないか。その感覚を想起させ、さらに不快感を煽る表現がつづいている。

原作者ディーバーの英語を、日本語翻訳した、池田真紀子さんによる日本語文が、臨場感を生み出し、狙いを捉えている。

背中にざわざわと悪寒を感じ、彼女は身を震わせた。子供のころ兄と山で遊んでいて、はらわたを食われたアナグマの死骸を発見したとき、そしてアカアリの巣を蹴り壊してぬらりと光る虫が、右往左往する様子を眺めた時にも、いまと同じ寒気を覚えたことをふと思い出す。

ボーン・コレクター

And she shivered with the creepy-crawly feeling she remembered from her childhood in the mountains when she and her brother'd find a gut-killed badger or kick over a red-ant nest and graze at the wet mass of squiring bodies and legs.

The  Bone Collector

怖さが徐々に増す仕掛け

事件は起きていないにもかかわらず、この描写による嫌悪感が、不吉な予感をさせる。戦慄を生む出来事を想像させ、読者をサスペンスの世界に引き込む。
読者心理を考えたしかけだ。”ジェットコースターに乗ったようなストーリー展開”と評されるディーバーに、気づかないうちに操られ、ゆっくりとコースターは動き出している。

ジェフリー・ディーバーが、インタビューに応じた内容を紹介する。やはり、本を書き始める最初に、構想をねるために時間を多くつかっているようだ。

Q:ジェフリー.ディーバーさん、どうやって小説の新しいアイデアを生み出しているのですか?

ジェフ:
本のアイデアはどこから来たのかとよく聞かれます。スリラー作家としての責任ある答は、サスペンス小説は、読者のために考えうる最もエキサイティングなジェットコースターのような乗り心地を与えることです。つまり、私は新聞や雑誌を見てインスピレーションを得るのではなく、暗い部屋に座って典型的なディーバーの小説に合うストーリーを考えるように努めている。本の初期段階に多くの時間を費やしています。強くおそらく欠陥があるヒーロー、病的にねじれた悪者、数章ごとの締め切り、ストーリー全体の短い時間枠(8〜48時間程度)、たくさんの驚くべきプロットのねじれと、曲がり角、そして、たくさんの読者をとらえ続きを気にさせるような場面が特徴です。

How do you manage to find fresh story ideas?
Jeff: I’m often asked where the ideas for my books come from. To answer that I have to describe what I think is my responsibility as a thriller writer: To give my readers the most exciting roller coaster ride of a suspense story I can possibly think of. This means that, rather than looking through newspapers or magazines for inspiration, I spend much of my time during the early stages of a book sitting in a dark room and trying to think up a story line that will fit the typical Deaver novel: one that features strong (though possibly flawed) heroes, sick and twisted bad guys, deadlines every few chapters, a short time frame for the entire story (eight to forty-eight hours or so), lots of surprising plot twists and turns and plenty of cliffhangers.

https://www.jefferydeaver.com/about/qa/


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