W杯まで40日ちょい(わくわく)!前回大会をおさらいしつつ日本代表を振り返ってみたら浮き彫りになった(タイミングはさておき)ハリル監督解任の妥当性(ハード面編)

さて、ロシアW杯本大会まであと40日ちょい。

前回のブラジル大会は、W杯とユーロの国際大会を連覇していた〈超ポゼッション〉の大本命スペインに対抗すべくカウンターに特化した〈プレッシング〉戦術を用いる国々が取り巻く構図だった。
上の太字部分がどこに現れていたかといえば、下表のリアクションサッカーを標榜する各国の前線には、パスやドリブルで攻撃に違いを生み出すプレーメーカーよりもスピードとアジリティに優れたフィジカル系の選手が多く出場していた。今の日本でたとえると、本田圭祐や香川真二よりも原口元気や武藤嘉紀のような選手がよく起用された大会だった。ちなみにアルジェリアを率いたハリルホジッチ監督はその戦術で成功した監督のひとりだった。

各国の戦型を大まかに分類するなら(これはW杯に限らないが)、以下の3通りになる。

基本戦型

・自分でボールを保持してゲームを支配する アクションサッカー
 (スペイン・ブラジルなど)
・相手にボールを持たせてカウンターを狙う リアクションサッカー
 (コスタリカ・アルジェリアなど)
・相手に合わせた戦い方で対応する バランス型
 (ドイツ・オランダなど)

それを踏まえて、これまでの日本代表を照らし合わせてみると、

南アW杯⇒岡田監督の(大会直前で方針転換した)リアクションサッカー

→その結果を受けて、能動的なスタイル(いわゆる「自分たちのサッカー」)を持つべく
ブラジルW杯⇒ザッケローニ監督は〈ポゼッション遅攻〉を重視したアクションサッカー

ロシアW杯⇒ハリルホジッチ監督は〈プレッシングからのショートカウンター=速攻〉に特化したリアクションサッカー

岡田監督のカウンター一辺倒のリアクションサッカーではベスト16が関の山、弱者の戦いからの方針転換を目指してスペインに倣った能動的〈ポゼッションスタイル〉を作ったのがザッケローニ
一方、紆余曲折を経て就任したハリルホジッチは、W杯本大会で結果を残すために岡田監督のそれより積極的な〈プレッシングからのショートカウンター〉に主眼を置いた。

あくまで基本となる戦型の話であって、〈攻守が表裏一体〉の現代サッカーでは対戦相手試合展開に応じてアクション/リアクション両戦術をこなす必要がある(戦術的な話はまた次回)

日本の立場から考えれば、
主導権を握れるアジアの国々⇒アクションサッカー を採るべきだし、
技術では劣る欧州/南米の列強⇒リアクションサッカーで対抗したい。
(↑「アジアでは勝てるが世界では勝てない」日本の永遠のジレンマ)

つまりアクション/リアクションサッカーの戦術に長けた監督(ザック・ハリル)をそれぞれ段階を踏んで招聘すること自体は悪い事ではない。

問題は、段階を踏めず順序を追えなかったことだ。


片方(アクション)の戦術がチームに染み込んで熟成しきる前に他方の戦術(リアクション)を植え付けられたことで、日本はどちらの特長も突出しきらないどっちつかずのチームになってしまった(ここも詳しい戦術論はまた次回)。欧州遠征中に本田圭祐が「チームとして立ち返るところがない」なる趣旨の発言をしたのはそういう意味だろう。

上で「紆余曲折」と記したが、すべての歯車が狂ったのはアギーレ監督の契約解除からだ。
メキシコ代表監督だったアギーレを呼んで、ザックが土台を作った〈ポゼッション〉サッカーに(日本人と似た体格・アジリティながら組織的な戦い方でコンスタントに結果を出す)メキシコ式パスサッカーを積み上げようとしたところは理に適っていた。その時点までは戦術・戦略(ハード)的に日本サッカーを組み立てていく意図が見えていた。

(※少し話は逸れるが、似たようなケースで思い起こされるのはオシム政権である。タレント個々の能力に頼りすぎたジーコ監督を経て、真面目でよく走る日本人の特性を活かしたダイナミズムあふれるサッカーを標榜するオシム監督に託したのもおそらくは悪い選択ではなかった。オシム/アギーレ両政権とも方向性/コンセプトは日本人に合っているように思えたものの、だからこそ志半ばで頓挫してしまったのは不運だった)

ハリルホジッチ政権の功罪

リアクション派のハリルホジッチ監督は〈1対1でボールを奪い切る=デュエル〉・〈奪ってからの縦に速いサッカー〉ばかりを重視し、〈ポゼッション〉能力に価値も必要性も見出さなかった(その結果、状況を問わず縦への展開を求めて選手からの不満・不信を買った)。
自分の戦術をチームに浸透させることに躍起になるあまり、日本がザッケローニ+アギーレ政権で培った(少なくともアジアでは機能していた)〈ポゼッション〉スタイルの土壌に〈プレッシング〉戦術を植え付けるハイブリッドなチーム作りを怠ったのだ。

アギーレの契約解除でつまずいたことには同情の余地こそあれ、失態を取り返そうと目先の結果を求めて〈直近のW杯で実績を残した〉というフィルターでハリルホジッチを選んだJFAは任命責任を問われるべきだ。
技術委員会がブラジルW杯までの四年間のプロジェクトを分析・検証して最適の選択枝を探った結果がアギーレだったなら、その後釜にも同じ戦術的特性を携えた日本サッカーに積み上げをもたらす監督を招聘すべきだった。


…というわけで、私見では「積み上げがなくなった」という一点を理由に、(時期は別として!!)ハリルホジッチ解任自体は賛成だったのだが、その戦術的(ソフト面)裏付けはまた次回。

「サ」ポートに「シ」ェアと「ス」キ…『「セ」ンスが爆発してますね』という「ソ」ウルフルなリアクションまでお褒めの"サシスセソ"ください!