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「愛と絶望の台湾新幹線」を読んで

 図書館で『十津川警部 愛と絶望の台湾新幹線』を借りて読んだ。講談社が2016年10月に出版した文庫本だ。内容は東京で殺害された女将の事件解明のため、十津川警部と亀井刑事が台湾へ出張し、台湾新幹線で縦断捜査をすることだ。本の帯には「終戦直後の台湾で女将の父が犯した罪と繋がりが?」とある。女将の父は一体どのような罪を犯したのか?この帯の一行に惹かれ、一読したのである。
 西村は、文庫の扉で次のように述べている。「終戦の時、海外にいた日本人がどうなったか。軍人の方はわかり易いが、民間人の方はいまだにわからないことが多い。日本の植民地だった台湾では、戦後70年たった今になって、ようやく非業の死を遂げた日本人に対して、その遺族に賠償金を支払う旨を台北高等行政法院が可決しているが、その時『台湾は、過去の過ちに向き合うことが出来た。日本もできる筈だ』と発表している。この言葉は、われわれにとっても重い。」
 2016年の2月には、台湾の2・28事件に関連して、沖縄人遺族への賠償金判決が出た。西村が「愛と絶望の台湾新幹線」と題した作品を世に出したのも、このタイミングだった。見事な腕前に、私は作品を読んでほとほと感服した。
 2・28事件とは、1947年2月28日に台湾で起きた事件だ。国民党政権が住民に銃を向け、無差別銃殺したのである。犠牲者は10万人を超えるとの一説もあるが、詳しい死者数は今もわかっていない。事件で外国人も巻き込まれていたことはあまり知られていなかったが、1987年、台湾で戒厳令が解除され、メディアでも同事件を取り上げるようになってから、日本人も巻き込まれていたことがわかった。
 台湾で起きた悲劇ではあるが、西村は多くの愛読者にも同事件を知ってほしい思いから、2007年1月に開業した台湾新幹線と絡ませたストーリー展開にしたのだろう。台湾新幹線は台北市と高雄市を結ぶ高速鉄道で、日本の新幹線のシステムと一部異なるところはあるが、日本の新幹線技術の初の海外への輸出案件である。
 読了後、犯人が女将を殺害した動機、また犯人が捕まらずの点など、謎を残した終わり方という感じはある。しかし、作品を通して、台湾の多くの事柄を知ることができるので、みなさまにもページをめぐってほしいと思った。

辺野喜・陳宝来


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