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保健委員は魔女っ子なのです 第九話

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第九話 おばあさんの腕輪の話

 次の日の昼休み、少しでも早く保健室に行こうと、エーリとカレンは給食を急いで食べました。自分たちが見つけた猫を受け取って、喜んでくれるだろう場面を見届みとどけたかったのです。
 保健室にはいると、猫探しの依頼人いらいにんのおばあさんはまだ来ていなかったので、二人はキッチンでお茶をかして待っていることにしました。猫は暖炉だんろの近くでぬくもりながら、ミルクをめています。
 しばらくするとおばあさんがやってきました。

「どうぞ、おすわりになってください。お茶はいかがですか?」

 マージがおばあさんをまねきいれました。おばあさんは暖炉のそばの猫を見て、にっこりしました。

「ありがとう、見つけてくれたのね」

「うちの魔女っ子たちにも手伝てつだってもらいました」

 エーリはおばあさんのリクエストでレモングラスティーを入れると、テーブルに持っていきました。ティーカップをテーブルにく時に、エーリのそでしたからちらりとのぞいた腕輪を見つけて、おばあさんが言いました。

「あら、それは“あい腕輪うでわ”かしら。なつかしいねぇ。娘時分むすめじぶん流行はやったのよね」

「この腕輪のことを知っているのですか?」

 マージがおどろいて聞き返します。エーリとカレンも顔を見合わせました。

「よく見せてちょうだい。──ああ、やっぱりそうね。
 昔、“愛の腕輪”という魔法道具まほうどうぐ流行りゅうこうしたの。魔法道具のお店で買えるので、はじめは魔法学校の生徒を中心に流行していたのだけど、そのうちうわさは広がって、私たちのような魔法を使えない人たちの間でも、魔法使いの友達なんかを通して流行り出して……。
 色々と問題になったので、政府せいふ製造せいぞうと使用を禁止して全部回収かいしゅうしたのよ。まだ残っているものもあったのねぇ」

「腕輪にめられた魔法の効果こうかは、なんだったのですか?」

「魔法のことだからむずかしいことはわからないけれど、簡単かんたんに言うと縁結えんむすびというか、ぐすりというか……。腕輪をおくられた人は贈った人にこいをするの。おたがいに贈りあって、永遠えいえんの愛、つまり結婚けっこん約束やくそくに使う人も多かったわ。若い子がよろこびそうでしょ」

過去かこ社会現象しゃかいげんしょうになってたわりには、初耳はつみみだわ」

「あなたが生まれる随分ずいぶん前ですからね」

 おばあさんはお茶をすすりました。

ほかに何か知っていらっしゃることはないでしょうか。この子の腕からはずれず、こまっているのです」

「ごめんなさいね。私はその腕輪を使った事がないし、魔法のことはからっきしでねぇ」

「そうですか……」

 腕輪のなぞが少しけましたが、おばあさんが知っているのはここまでのようでした。おばあさんは「この後、予定があるので」と、席を立ちました。マージが見送ります。

「腕輪の情報じょうほうをおだいえさせていただきますわ。また、アトリエをご利用りようくださいね」

 おばあさんが出て行こうとしたところで、カレンが猫をいてあわてて追いかけました。

「おばあさん! 猫ちゃんをおわすれよ!」

「あらあら! 私ったらボケちゃって! ありがとう、魔女っ子さん」

 おばあさんは猫を受け取ると、帰って行きました。

 自分たちのかかわった猫探しの依頼も片付かたづいて、得体えたいれなかった腕輪の正体しょうたいが少しかって、エーリもカレンもかろやかな気分でした。マージは少し難しい顔をしています。昼休みも終わったので、エーリとカレンは授業に戻りました。

 授業中でしたが、エーリは腕輪が愛のための魔法道具と知って、本来ほんらいぬしのことがとても気になりはじめました。
 腕輪をはめていても何も変化が無いように思っていましたが、もし持ち主が目の前にあらわれれば、その人に恋心こいごころを抱いてしまうのでしょうか。
 いえ、そもそも女性が男性におくろうとしたものある可能性かのうせいもあるし、まだ未使用みしようであった可能性もあります。何より、おばあさんが若いころの話ならば、持ち主はおとししているでしょう。
 でも、腕輪がかくされていた本は、愛の腕輪の説明書せつめいしょにしてはロマンチックさが足りないような気もしました。

 マージはキッチンでティーカップを片付けながら考えをめぐらせていました。
 なぞの腕輪、腕輪をねらう男の出現しゅつげん迅速じんそく逮捕たいほ、魔法の暴発ぼうはつ、腕輪の正体を知るおばあさん。この数日で怒涛どとうのようにエーリの腕輪にまつわる事柄ことがらこりました。
 マージは、黒いローブの男があらわれた日、帰宅してからエーリと腕輪のことが話せないかためしてみましたが、小手先こてさきの方法では無理でした。せめて“腕輪のことを話せない魔法”を解くことができれば、もっとエーリの助けになれるのに、と思っていました。
 マージは保健室の先生におさまってはいますが、もともと、ちからのない魔法使いではありません。むしろ優秀ゆうしゅう部類ぶるいに入ります。しかし魔法の種類しゅるい膨大ぼうだいです。方法まで合わせればそれこそ無限むげんと思われるほどあります。マージはむすめのためにも、もう一度勉強し直さなければと、魔法学校をたずねることを決めました。


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