134.三題噺「雨の中、ケーブル、HIPHOP」
出かけていた僕は、突然の雨に降られてしまって、仕方がなく近くのコンビニで雨宿りすることにした。
そこには、偶然にもひとりの女の子がいた。
「同クラさん?」
僕が声をかけると同クラさんは「あ」とぷっくりしたピンクの唇を開いて、イヤホンを外した。
「まさか降ると思わなかったから傘、忘れちゃって、雨宿りしてるの」
「秋の天気は春と似て気まぐれって言うからね。僕も一緒に雨宿りしていい?」
「う、うん! もちろん。でも気温はまだまだ夏だよね」
同クラさんは急にソワソワして前髪をいじりながら言った。
「そうだね。今日は特に暑いや」
何もしてないけど暑さに抗ってるだけで頑張った気になってしまうほどだ。
「アイスでも食べよっか」
「あ! いいね」
「同クラさんは何食べたい? 奢るよ」
「えっ! い、いいよ……」
「遠慮しない遠慮しない。たまには僕に甘えてよ。ね?」
「じゃ、じゃあ……。ありがと」
同クラさんは俯きがちに言って、丁寧にお辞儀した。
二人一緒のアイスを買って、同じタイミングで一口食べる。
「そういえば、さっきは何聴いてたの?」
「一緒に聴こ?」
同クラさんは有線イヤホンのケーブルを持って片方を僕の耳に入れてきた。
突然走った耳の感触にゾワゾワした。
「あ、ご、ごめんね?」
「ううん。大丈夫……」
雨の中、二人ともぎこちなくなって無言になる。
聞こえるのは水の音。
そして右耳のHIPHOP。
「え…… 。HIPHOP?」
「意外、だった? 最近ハマったの」
「そ、そうだね……。でも同クラさんは守備範囲が広いというか、多趣味そうだからそこまでではないかも」
「ふ、ふぅーん。君には私がそうゆー風に見えてるんだ」
頬を紅潮させた同クラさんはアイスを一口齧った。
僕はいまだに右耳と左耳から聞こえる音の差に慣れない。
これは風流……なのか?
ぼーっと空を見ていたら溶けかけて手がベタベタになっていた。
「あはは」
同クラさんは自然に笑ってカバンの中からウェットティッシュを取り出した。
「君はたまに抜けてるよね」
そう言いながら僕の手を優しくとって、拭いてくれた。
作者です。
三題噺を書きました。
題目の選定は以下のサイトを使用させていただきました。
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