108.三題噺「ポートレート、あるある、ハーフ」
僕は後輩ちゃんと近くの公園に来ていた。
後輩ちゃんは髪の毛をハーフアップのお団子にしていて、ゆるふわな雰囲気だ。
「花火大会行けなかったので、先輩には今日一日私に付き合ってもらいますよ」
「わかった。何するの?」
「写真撮りながら先輩とのんびり散歩したいなと思って……。いいですか?」
「いいよ」
歩きながら、後輩ちゃんと他愛もない話をする。
後輩ちゃんの首にはミラーレス一眼が下がっていて、少し立ち止まっては数枚シャッターを切っていた。
「カメラは自分で買ったの?」
「これは家族で共有して使ってる物です。ほとんど私しか使ってないんですけどね」
あははと後輩ちゃんは笑った。
なんか……。いいな。こののんびりした感じ。
先輩後輩の関係よりも深い、仲良しの空気感だ。
「風景だけじゃなくてポートレートも撮りたいんですけど、先輩、モデルやってくれませんか?」
「僕じゃいい絵にならないと思うよ」
「先輩はかっこいいのに……」
そう言ってくれて嬉しいよ。ありがとう。
お世辞だろうけどね……。
あれ、なんだろう落ち込んできた。
それにしても、結構長いこと歩いてるけど、後輩ちゃんはこの辺りの地形詳しいのかな?
「……あの、先輩」
……何か嫌な予感がする。
「ここ、どこでしょう?」
「僕も全くわからない……」
僕と後輩ちゃんは道に迷い、知っている場所に出るまで2時間くらいかかった。
意外と近い場所だったのに時間がかかったのは、後輩ちゃんが「こっちだと思います!」と案内する方向がことごとく反対方向だったからだ。
後輩ちゃんは方向音痴かもしれない。
「ぼーっとしながら歩いてると、道に迷うってあるあるですよね〜」
それは、あるある、とは言えないや。
「後輩ちゃん、気をつけてね。いつか帰ってこれなくなりそうで心配だよ」
「そこまで重症じゃありませんよ〜」
後輩ちゃんは僕の肩をペシペシ叩いた。
「でも、ごめんなさいでした」
ぺこりと頭を下げて後輩ちゃんは謝罪する。
「ううん。楽しかったよ。また誘ってね」
「いいんですか!?」
「もちろん」
「っ〜〜〜〜!」
後輩ちゃんは声にならない喜びを噛み締め、破顔した。
「えへへ。うれしい。先輩、だいすき」
「……気をつけて帰ってね」
後半は、聞かなかったことにした。
作者です。
三題噺を書きました。
題目の選定は以下のサイトを使用させていただきました。
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