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169.三題噺「入道雲、筆箱、ドーナツ」

「青空が綺麗だね。後輩くん」

 どうして僕は先輩と河原の芝生に寝転がるなんていう、青春物語のようなことをしているのだろう。

 たしかに青空は綺麗だ。
 でも、なんでこんなことをしてるんだろうと思ってしまうのは否めない。

「文化祭でやりたいことやりきって完全燃焼しちゃったよ、燃え尽き症候群かな?」

 先輩はぐぅーっと伸びをした。一緒に空を眺める。

「いわし雲見つけました」

「あっちにはしらす雲があるよ」

「雲って、結構食べ物の名前ついてますよね。海の生き物ばかりのイメージですけど」

「食べ物だけじゃないよ」

「例えば?」

「あの細長いのとか、微妙に四角いのは筆箱みたいじゃない? だから筆箱雲」

「それ、先輩の命名ですよね」

 先輩は、むぅ〜と不満げな声を出してから、うーん、と少し考えた。

「じゃあじゃあ、ひつじ雲とか生き物だよ! ……あ、ラム肉食べたい」

「結局食べ物じゃないですか」

「あはは。雲って綿飴に見えるんだもん。お腹空いちゃった。ドーナツ食べたいなぁ」

 確かにお腹が空いている。
 雲には食欲をそそる何かがあるのかもしれない。

「そういえば聞きたいことがあるって言ってましたけど、なんですか?」

 先輩は目を瞑って深呼吸してから、唇をきつく結び、開いた。

 僕の質問からかなりの時間が経っている。

「あのね、後輩くん」

「なんですか?」

「……この前のこと、覚えてる……?」

「この前って?」

「お化け屋敷で……。えっと、唇が……」

「唇?」

「お、覚えてないならいいの!!」

 先輩が気にしないでいいと言うならそうしよう。

 僕はまた空を見た。
 入道雲が綺麗だ。秋なのに珍しい。

 ……ん? 入道雲?

 僕は起き上がった。
 先輩は気づいてないからまだ寝っ転がったままだ。

 僕はしゃがんで、ぼーっとした様子の先輩の肩に触れ、顔を覗く。

「先輩……?」

 まだ気づかないから、さらに顔を近づけると、先輩はうっとりした顔をして、目を閉じた。唇は結ばれている。

 えっと……。これはなんの時間だろう。

「雨が降りそうなので帰りましょう」

「えっ!? そ、そうだったんだ……」

 先輩は急いで起き上がり、左腕を掴んだ。

 僕を見てから顔を逸らしたけど、どうしたんだろう。顔、赤いし。

「じゃあね……。後輩くん」

「はい。また学校で」




作者です。
三題噺を書きました。
題目の選定は以下のサイトを使用させていただきました。
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