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168.三題噺「喉、会議、砕く」

 文化祭最終日、僕は体育館の舞台袖にいた。

 今は一大イベントのミスコンが開催されている。異様な熱気と緊張感だ。

「誰が優勝となるのでしょうか!」

 元生徒会長のマカロンくんが司会だ。
 喉を張って大声を出している。

「どっちが優勝すると思う?」

 マカロンくんによってもう一人の進行役、後輩ちゃんに話が振られる。

「どちらも大人気ですよね」

 僕は舞台袖にいるふたりの少女に近づく。

「うぅ……。知らない間に友達にエントリーされてたのに決勝まで残るなんて……」

「同クラちゃんもすっごく可愛いよ!」

 緊張して震えている同クラさんを先輩が励ました。
 対戦相手を激励するのは先輩らしい。
 ふたりとも言うまでもなく美人だ。

 このふたりの最終決戦が、今、始まる。

「先輩、同クラさん、気楽にいきましょう」

 これで何かが変わるわけじゃないし、心を砕くことなく楽しんでほしい。

 集計結果が発表され、観客はどよめいた。

「なんと! 同票だ!」

 どちらも異なる層に人気があるから、同票になるのも納得だ。

「ここで会場の皆様にサプライズがひとつ」

 マカロンくんが口角を上げた。
 幼馴染だからわかるけど、生徒会の激務から解放されたからか、かなりはしゃいでいるなぁ。

「裏で進めていた投票一位。そして奇跡的にも決勝進出者のふたりと同票。その方にシークレット枠として登場してもらいましょう」

 スポットライトが後輩ちゃんに当たった。

「……え?」

 後輩ちゃんが事態を飲み込めないままステージにあがり、三つ巴の戦いが始まった。

「唯一投票をしていない一人の男子によって、優勝者が決まります」

 それは責任重大だ。僕は他人事でいた。

「生徒会長、ステージに立て」

「は?」

 突然の指名に僕は呆然としながらステージに立った。

 マカロンくんは悪戯が成功した子供のように笑っていた。

 これは……。完全にしてやられた。

 三人の女の子の「誰を選ぶの……?」という視線が僕に向けられる。

 誰を選んでも、熱狂的な男子に人気のない校舎裏に連行されて意味深な会議を開催されるだろう。

 当事者となった僕は、最後の一票を投じる。

 ミスコンの結果は……。

「お前は相変わらずのヘタレだな」

「うるさいな、マカロンくん」

 僕らは静かになった体育館で二人きり。

 勝敗を左右する一票を、僕は放棄したのだ。

 結果は全員優勝。誰かを選ぶことなんて、まだできなかった。

 心の中の一票は未だ揺れ動いている。



作者です。
三題噺を書きました。
題目の選定は以下のサイトを使用させていただきました。
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