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170.三題噺「永久保存、ラテアート、桟橋」

 元生徒会長の俺はとあるカフェにいた。
 ただのカフェではない。

「にゃ、にゃ」

 身を屈めている先生が猫の声真似をした。

 ここは猫カフェ。
 昨晩、勇気を出して先生を誘ったところ、偶然にも休みだったのだ。

 今、先生は自由気ままに過ごす猫に夢中で、ソファに座っている俺のことは完全に視界から消えている。

 注文していたコーヒーが届いた。
 俺の方にも先生の方にも猫のラテアート。

 デフォルメされたイラストが結構かわいかったから、写真を一枚撮っておいた。

「なあ」

 ふいに先生から声がかけられる。

「どうしたんすか?」

「写真を撮ってほしいんだが……」

 俺は先生の置かれている状況を見る。
 先生は猫に好かれやすいのだろうか、足元にわらわらと集まっている。

「ダメか?」

 そんな目で見られたら断れるわけがない。

 知的でクールでかっこいいのに、可愛いなんて反則だ。

 こんなにも全てを兼ね備えている女性がいていいのだろうか。

 そんなアホな思考がよぎるほどには、俺は先生に夢中だ。

 写真を撮ろうとするが、先生は一向にスマホを渡してくれない。

「どうした?」

「い、いえ……。じゃあ撮りますね」

 俺は自分のスマホを操作し、カメラを起動する。

 先生は表情を精一杯取り繕っているが、口元がだらしなく緩んでいるのは隠し切れていなかった。
 そういうところも可愛い一面だ。

「どうだ? うまく撮れたか?」

 俺は自分のスマホに保存された写真を眺め、頷いた。

 写真からも、うきうきという擬音が見えるくらいに先生は浮かれている。
 先生には悪いけど、これは永久保存ものだ。

「君も触れ合ってみたらどうだ?」

 俺はあまり動物に好かれない性質だ。
 先生が喜んでいるのにそれを壊すようなことはしたくなかった。

 だが、拒否するのも悪い。

 先生の足元はたくさんの猫が集まり、もはや猫の海。

 俺が恐る恐る近づくと桟橋があるかのように割れていく。

 ダメもとでしゃがんで手をゆっくり伸ばしてみた。

 予想通りみんな逃げ出すものかと思ったが……。

 一匹だけ、俺の伸ばした手にゆっくりと近づき、頬を擦り付けてくれた。

「か、かわいいっすね」

 俺の頬も自然と緩む。これは虜になるのもわかる。

「……かわいい」

 先生も俺と同じことを呟く。
 だが、なぜかその視線は俺を見ていた。




作者です。
三題噺を書きました。
題目の選定は以下のサイトを使用させていただきました。
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