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145.三題噺「ボディチェック、グライダー、魔法使い」

 中間テスト二日目を終え、昇降口に行くと後輩ちゃんがぼうっとした様子で立っていた。

「後輩ちゃん? 大丈夫?」

「あ……。先輩だぁ」

 後輩ちゃんは突然僕に抱きついてきた。

「先輩の匂い……。落ち着く」

「こ、後輩ちゃん……?」

 僕の手は、後輩ちゃんの細い腰に回すわけにもいかず、行き場を失い空中を彷徨う。

 数秒経って、後輩ちゃんはハッと離れた。

「い、今のはボディチェックです! 先輩成分を補給したかった訳じゃないんです!」

「うん……。わかってるよ」

「そうですか。よ、よかった……」

 安堵した様子の後輩ちゃんと僕は、成り行きで一緒に帰ることになった。

「疲れてるのはテストだから?」

「はい。高得点なのは確信してるんですけど、普段より勉強できてないから不安で……」

「後輩ちゃんは大丈夫だよ。きっと大丈夫」

 僕の拙い励ましでも心に響いたのか、後輩ちゃんの表情は晴れた。

「先輩にはいつも支えられてばかりですね」

「当然のことをしてるだけだよ」

「もう。先輩は優しすぎます。だから……。こんなにも気持ちが膨れ上がって……」

 後輩ちゃんは胸の前でぎゅっと手を握った。

「どうかした?」

「なんでもない!」

 並んで歩いてた後輩ちゃんは僕の前に出た。

「あーあ。魔法使いがいたら、人の気持ちが分かるように頼むのになぁ。特に、一個上の男の子の気持ちとか……」

 そんな力があったら僕の方がほしいなあ。

「先輩、私にして欲しいことないですか?」

「生徒会の仕事を真面目にしてほしいかな」

「そんなこと頼まれなくてもちゃんとやりますよ。全く、先輩は真面目なんだから……。でも、そんなところも……」

 後輩ちゃんは何かを呟いて黙ってしまった。

「ねぇ、先輩……」

「何?」

 後輩ちゃんは背を向けたまま立ち止まった。

「すき……」

「…………え?」

 僕の心はハングライダーに乗っているみたいにフワフワした。

 すき? すきってなんだ? ……まさか?

「す、す、好きな食べ物はなんですか?」

 あっ……。そういうことね。
 危ない。告白だと勘違いするところだった。

「ど定番だけど唐揚げとか、カレーかなぁ」

「今度、お弁当作ってあげますね」

 後輩ちゃんはそう言って歩き出した。

「気持ちが溢れちゃって、つい言っちゃった……。でも、どうせなら先輩からが……」

 後輩ちゃんの小さな背中越しに何かを呟いているのが聞こえる。

 お弁当をどうしようか今から考えてくれているのかもしれない。




作者です。
三題噺を書きました。
題目の選定は以下のサイトを使用させていただきました。
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