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84.三題噺「レッドカーペット、街歩き、Wi-Fi」

 特にやることもない僕は、暇を持て余すという方法で夏休みを満喫していた。

 隙あればスマホを触っていて、Wi-Fiの恩恵をこれでもかと享受しているほどだ。

 宿題は毎日コツコツとやっているから問題ない。むしろペースが早過ぎて終わりそうだ。

「はぁ、先輩に会いたい……」

 ぽつりと、僕の口から本音がこぼれた時、スマホの通知が鳴った。

「っ!?」

 画面に表示されているのは、まさに先輩の名前だった。

「『いま、暇?』って、どうしたんだろう」

 僕の「暇ですよ」という返信に、先輩は即レスだった。

 今から電話しようというメッセージが来た数秒後には、先輩から着信があった。

 動揺を落ち着かせるためにひとつ咳払い。
 それから深呼吸をして通話ボタンを押した。

「一緒に出かけない?」

 先輩からの誘いを受けて、僕は急いで準備して、待ち合わせ場所に向かった。

「やっほ。後輩くん」

「こんにちは。先輩」

 先輩は涼しげなロングワンピース姿で待っていた。頬が緩みそうになる。

 街歩きをしようとなって、目についたセレクトショップに入った。
 ホテルみたいなインテリアで面白い。

 先輩はキラキラと目を輝かせて色々な洋服を手に取ってはしゃぎ始めた。

「見て見て、後輩くん! レッドカーペットみたいなスペースがあるよ! セレブごっこしようよ!」

「人目があるので恥ずかしいですよ」

「ノリが悪いぞ〜」

 先輩はポカポカと僕を優しく殴ってくる。

 今日の先輩は、いつにも増して身振り手振りで感情を表現していてテンションが高い。

 でも、こういうときに限って胸元が空いたワンピースを着ているから、激しく動くせいで何とは言わないけどチラ見えしている。

「先輩、その……」

「ん? どしたの?」

「かがむと胸元が……」

「……っ!? ご、ごめん!!!」

「い、いえ……」

 先輩が服装を正す。沈黙が気まずい。

「あ、暑いですね……」

 室内はエアコンが効いていて涼しいけど、僕はそんなことを言っていた。

「夏だからねぇ……」

 先輩も俯いて暑そうにしている。

 二つの山。深い谷。

 それはきっとエベレストよりも高く、マリアナ海溝よりも深い。

 僕は悟りを開き、そんなことを思った。

「哲学だな……」

「え、なにが?」

 先輩はキョトンとしていた。



作者です。
三題噺を書きました。
題目の選定は以下のサイトを使用させていただきました。
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