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199.三題噺「土踏まず、短歌、二度死ぬ」

「あはは、怒られちゃったね」

「先輩のせいですからね?」

 僕はとぼとぼと先輩の隣を歩いていた。

 放課後、先輩の遊びに付き合わされていつのまにか下校時刻を過ぎていたのだ。

 そして先生に怒られたという経緯だ。

「ねえねえ、後輩くん」

「なんですか?」

「ちょっと夜遊びしない?」

「まだ遊ぶんですか……」

 断りきれなかった僕は先輩に連れられ、夜の遊園地にやってきた。

 いくつもの乗り物を休憩なしに梯子する。

「次はあれ乗ろうよ!」

 はしゃぐ先輩が指したのはジェットコースターだった。

「し、正気ですか……?」

 思わず声が震える。怖いと評判のやつだ。

 先輩の目はキラキラしていた。

 乗るしかないのか……。僕は覚悟を決めた。

 ジェットコースターに乗ったことにより、僕は二度死ぬような目にあった。

 一度目は落ちるときの浮遊感による恐怖。

 そして二度目は現在進行形で続いている。

「思ってたよりこわかった……」

 降りてから先輩は正面から僕に抱きついて離れない。
 そのせいで心臓が破裂しそうだ。

「もう二度と、ジェットコースター、乗りたくない。過去の私は、どうかしていた」

 先輩は短歌のように心情を詠んだ。

 ぎゅっと抱きしめられて隙間がないほど密着されているから声とか息が胸元に伝わってくすぐったい。

 僕は身の危険を感じて先輩を引き剥がした。

「先輩。ベンチで座って休みましょう!」

「あはっ。後輩くん、顔真っ赤」

 先輩は急に元気になって僕を笑った。

「え……演技だったんですか!?」

 もちろん。と先輩は得意げに鼻を鳴らす。

「でもね、実は私も心臓バクバク」

 頬を赤らめながらも先輩は楽しそうに笑っている。

「触って確認してみる?」

 そんなこと、できるはずがない。

 先輩がつんつんしてくるけど、反撃できるほどの余裕はなかった。弄ばれてる。

「ほらほら、次は観覧車だよ?」

「はぁ……。仕方ないですね……」

 僕は先輩に手を引かれる。

「楽しいね?」

 先輩は観覧車に乗っても落ち着きなく体をゆらゆらさせて気持ちを表現していた。

 やれやれ、と思いつつも僕は満更でもない。

 観覧車が天辺まで来て、先輩は目を見開いた。

「わぁ、きれい!!」

 眼下に広がるのはイルミネーションの灯り。
 その輝きに照らされた先輩はとても綺麗だ。

 歩きすぎて土踏まずが痛いけど、先輩の笑顔が見れたのなら充分すぎるほどの対価だ。



三題噺を書きました。
題目の選定は以下のサイトを使用させていただきました。
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