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107.三題噺「盆踊り、独白、困り顔」

 今日は花火大会。

「着付けてもらってたら遅くなっちゃった」

 僕は浴衣を着て来た先輩に見惚れた。

「どうしたの? 早く行こ?」

「そ、そうですね」

 歩きながら先輩と話す。

「もうすぐ夏休みが終わっちゃうね」

「楽しかったですね」

「うん! 最高の夏だったよ」

 今日も楽しむぞ〜、と先輩はウキウキだ。

「あ! いいの発見!」

 先輩は小走りで屋台のひとつに近づく。

「金魚掬いですか」

「どれだけ掬えるか勝負だぁ!」

 先輩は指差して勝負を申し込んできた。

「僕、一回も取れたことないんですよね」

「私の圧勝かもね〜。大得意だからさ!」

 先輩は浴衣の袖をまくり、やる気十分だ。

「こうして後輩くんは先輩の偉大さを改めて思い知るのであった」

 先輩が独白し、勝負はスタート。

 ……結果、先輩は言い出しっぺなのに全くとれず、僕は5匹もとれた。

 ちょっと嬉しいけど、落ち込んでる先輩の手前、素直に喜びを表に出しづらい。

「罰ゲームは無しにしましょうね」

「そうしてくれると助かりますぅ……」

 先輩はがっくりと肩を落とした。

 それから屋台を回り、盆踊りを見て満喫した後、花火の時間になった。

 色とりどりの花火が空を彩っていく。

「わぁ。綺麗だね〜」

 先輩は目を輝かせ、感動している。

「そうですね。綺麗です」

 僕も素直に頷く。

 少しの時間、花火が止まった。
 これからクライマックスが始まるんだろう。

「あのさ、後輩くん」

 その時間に、先輩が僕に声をかけてきた。

「何ですか?」

「私と……付き合っちゃう?」

 先輩の顔を満開の花火が照らす。
 今日一番の花雷が咲き、轟いた音の振動が体に響いた。

 小さな声だったのに、僕の耳には確かに先輩の言葉が届いた。

「冗談でもそんなこと言わないでください」

 本気にしてしまうから。

「……冗談じゃないもん」

「なにか言いました?」

「……ばか」

 先輩は唇を尖らせて拗ねた。

「でも、後輩くんらしいや」

 それからどこか納得して笑顔になった。

「まだまだフィーバータイムは終わらないよ? 全屋台制覇するぞ〜!」

 お〜、と先輩は拳を空に突き上げた。
 僕は困り顔をして、やれやれと肩を竦める。

 その後、本当に全屋台制覇に付き合わされて、僕は疲労困憊になった。




作者です。
三題噺を書きました。
題目の選定は以下のサイトを使用させていただきました。
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