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44.三題噺「リハーサル、黄金比、囁く」

 夜、ベッドに入った僕は先輩の連絡先を映したスマホを眺める。

「少し、声聞きたいな……」

 なんとなく。僕は寝る前に先輩の声が聞きたくなって、でも用事もなしに電話をかけていいものかと高校生男子らしいうぶさを部屋で発揮していた。

 支離滅裂な思考になっていることは重々承知だけど、気を落ち着かせるために僕は家の中にいる妹に電話をかけた。

 すぐに部屋のドアが開けられ、パジャマ姿の妹がやって来た。

「どしたの? お兄ちゃん」

「気にするな。リハーサルみたいなものだ」

 誤魔化せたのか妹は「ふーん」と相槌を打った。

「好きな人に電話しちゃえばいいのに。勇気を出してくれたってだけで可愛く思うものだよ?」

 ぐっ……。誤魔化せていなかった。

「そ、そうか……」

「私の持論だけど、恋の黄金比は待ち1:攻め1.618の姿勢が大事だよ」
 と言い残して妹は部屋に帰って行った。

「情けない兄ですまない妹よ」

 ……というか、経験豊富そうな口ぶりだったけど男子から電話来てるってことか?

 僕は妹の恋愛事情が少し気になった。

 いや、今は気にすることじゃないか。

 スマホを見る。
 後はボタンを押せば先輩に繋がる。

 僕は覚悟を決めてスマホを耳に当てた。

 コール音が数回して「……もしもし?」と先輩の声が聞こえた。

「こ、こんばんは!」

「こんばんわぁ〜」

 なんだか先輩は寝ぼけたような反応だ。

「あれぇ? なんで後輩くんの声が聞こえるのぉ……?」

 微睡んでいたのか先輩の喋り方はいつもよりゆったりしている。

「もしかして寝るとこでした?」

「うん。私、寝るとこだったぁ……」

 なんか、緊張してた自分が馬鹿らしくなって一気に肩の力が抜けた。

「悪いのでまた今度かけなおします」

「うん……わかったぁ」

 むにゃむにゃと先輩はすでに夢うつつだ。

 僕は気を抜いていた。

「おやすみ、後輩くん」

 耳元で囁く先輩の不意打ちに僕は悩殺された。

 電話を切ってからも、目を閉じると隣で眠っている先輩を想像してしまって、悶々として、ようやく眠れたのは朝方だった。




作者です。
三題噺を書きました。
題目の選定は以下のサイトを使用させていただきました。
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