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143.三題噺「インターネット、ペーパーナイフ、震える手」

 僕は先輩が占領している空き教室にいた。
 強制連行された結果だ。これは逃れられない災害だし、仕方がない。

「今日は特に遊ぶつもりじゃないんですね」

「そーだねぇ。後輩くんと一緒にいたかっただけだから」

 先輩は座って机にぐでーっとしている。

「後輩くん。インターネットタトゥーは怖いんだぞぉ?」

「突然ですね。実体験ですか?」

「ちがうよ。後輩くんが黒歴史を量産しないように、先輩らしく注意してみただけ〜」

「なるほど。みんな当然のように投稿してますから気をつけないとですよね」

 休み時間とか放課後とか、スマホを手にして何かしている姿をよく見るくらいだし。

「先輩は投稿してないんですか?」

「友達と一緒に、たまーにしてるよ」

 先輩の映った動画、ちょっと見てみたいな。
 そんなことを考えていたら「そうだっ!」と先輩が跳ね起きた。

「今、一緒に撮ってみようよ。私の充電切れそうだから、後輩くんのスマホ貸して〜?」

 そんな提案から動画を撮ることになり、参考動画から振り付けを覚える。
 先輩が言うには厳密に言うと流行より少し前の物のようだ。

「今どき女子高生の流行りには追いつけそうにないですね」

「後輩くんも今どき男子高校生じゃん」

 そんなことを話しながら動画を撮り終えた。

 スマホを返してもらって、一緒に確認する。

 画面が小さいから先輩のほっぺがすぐそこだ。
 身を寄せるだけでくっついてしまいそう。

 そんな集中できない状況で動画を見た僕は、更なる衝撃に固まった。

 動画に映る先輩は跳ねたり揺れたりしていて、下アングルなのもあってかなりスカートが危なかったのだ。

 僕は急いでホーム画面に戻した。
 先輩は自分の顔を手で覆っていた。

「も、もう、お嫁に行けない……」

 先輩は近くにあったペーパーナイフを手に取り、震える手で僕に迫ってくる。

「ど、動画消しました! 僕の記憶からも消去したので落ち着いてくださいっ!」

 慌てた僕を見て、先輩はピタリと止まった。

「あはっ。冗談だよ。びっくりした?」

「迫真の演技すぎて、そんなことしないと分かってても本気かと思っちゃいましたよ」

「私、主演女優賞取れちゃうかもね」

「そうですね。先輩はかわいいし」

「か、かわいいか〜。そっか〜。えへへ」

 先輩は恥ずかしそうに髪の毛を撫でた。
 正面から受け止められると恥ずかしい。

「動画……。撮り直しましょうか」

「うん! そうだね」

 今度のは安心安全なバストアップの画角だ。

 動画に映る先輩も、当然かわいかった。
 これは家宝にすると密かに決めた。



作者です。
三題噺を書きました。
題目の選定は以下のサイトを使用させていただきました。
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