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171.三題噺「スライディング、ビール、戦闘力」

 担当教科の先生が急に体調不良になったらしく、昼休み後の授業は自習に変わった。

「ねえねえ、同クラさん」

 僕は隣の席の同クラさんに話しかけた。
 同クラさんは書いていた手を止めて僕を見る。

「ん? どうしたの?」

「無感情ゲームしない?」

「な、なにそれ?」

 これは先輩の考案したゲーム。
 簡単に言えば感情を表に出した方が負けというルールだ。

 ルールを説明すると、同クラさんはすぐ理解した。

「じゃあ始めようか」

 僕は能面のような顔を意識する。

 同クラさんも軽く自分の両頬を手で挟んで「よしっ」と気合いを入れていた。

 スタートの合図とともに、ゲームが始まる。

 同クラさんはさっそく僕の脇腹をシャーペンで突いてきた。

「くすぐりのつもり? 効かないよ」

 僕もやり返してみる。

「へ、平気だし。効かないし……?」

 最初は効いてない風だったのに次第に同クラさんはぷるぷる震え始めた。

「顔真っ赤だよ? 同クラさん大丈夫?」

「き、君こそ口角がひくひくしてるよ?」

 僕らはお互いダメージをくらっている。
 戦闘力は互角だ。

 何をすれば同クラさんを負かすことができるだろう。

 変顔もいいけど、そういえば愛してるゲームってあったよな……。

 ちょっとした悪戯心が芽生えた僕は、さっそく試してみることにした。

「同クラさん、愛してるよ」

「ふぇっ!?」

 同クラさんはびっくりして椅子から転げ落ちた。

 僕はスライディングして受け止める……なんてできるはずもなく、同クラさんは尻餅をついた。

 教室中の視線が僕らに集まる。

「だ、大丈夫?」

 流石に悪いことをしてしまったかもしれない。
 僕は同クラさんを起こすのを手伝った。

「恥ずかしい……」

「ごめんね。冗談が過ぎたよ」

 僕は素直に謝罪をする。
 我ながらなかなか気持ちが悪かった。

 羞恥で顔を染めた同クラさんは頭を抱えて机に項垂れた。

「こんな嫌なことがあった日にはビールでも飲んで忘れたいね……」

「同クラさん、君未成年だよね?」

「小説に出てきたキャラクターがそう言ってたの。今ならその気持ちもわかるよ……」

 僕がお詫びとして休み時間に炭酸飲料を奢ると、同クラさんは腰に手を当てて意外なほどの飲みっぷりを見せた。

 同クラさんは将来酒豪になるかもしれない。



作者です。
三題噺を書きました。
題目の選定は以下のサイトを使用させていただきました。
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